「ゲニウス(北)の北海鉄旅いいじゃないか」

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東京を目指す旅 ~この坂を越えて~(平成29年3月4~10日)

1日目(平成29.3.5) 6/8ページ「急行もりよし」

堂々登場! 急行もりよし

みたび阿仁合駅です。しばらくこの駅を軸に行動していましたが、ここからは再び内陸線で移動します。

朝に鷹巣から南下して阿仁合に入ったわけですが、さらに角館方面に進んで、阿仁マタギ駅に向かいます。次の角館方面の列車は、時刻表上は3時28分に発車します。

この3時28分の列車というのが、急行もりよし3号として運行されます。JRの急行と同様に、乗車には乗車券のほかに急行券が必要です(安いけど)。

JR線に直通しない優等列車が走る第三セクター鉄道というのはきわめて稀ですね。まあ急行といっても、スピードはあんまりありません。

かつてはAN8900形というゴージャスな車両で運行されていましたが、現在では他の列車と同じくAN8800形での運行となっています。しかし、急行に使われる車両は前年からこの年にかけて後述する「秋田犬っこ列車」にリニューアルされており、秋田のPRの役割を与えられました。


改札で観光パスと急行券を提示して、いざホームへ。1両編成ながらヘッドマークが取り付けられ、堂々とした面構えの列車が、すでにホームに入っていました。この列車こそが、急行もりよし3号です。

車両は紺色のAN8805号で、車内には様々な装備や装飾がありました。

まず、車両は「秋田犬っこ列車」仕様となっていました。秋田県が主体となって国の援助のもと行ったリニューアル工事で、秋田犬の写真が内壁に大きく貼られています。ほか、座席がリニューアルされ、オレンジ色の明るいシートモケットと座り心地のいい詰め物という赤字三セクとしては上々の仕様に生まれ変わっています。さらに、フリーWi-Fiまで搭載しており、観光列車として花開いたという感があります。

続いて、この車両は前ページで触れた「北秋田のおひなまつり」に合わせる形で、期間限定で「おひな様列車」となっていました。天井からは雛飾りが吊るされているほか、折り紙の雛人形が飾られており、かわいらしさや微笑ましさを感じさせる内装となっています。

そしてヘッドマークですが、「もりよし」とは全く書いてません。というのは、内陸線では「一日オーナー」を募集しており、代金を払えば急行もりよし(およびそれと一続きの運用)に1日or3日限定で好きな名前を付けられます。競馬の個人協賛レースのような感じですね。だからやろうと思えば「ゲニウス(北)の北海鉄旅いいじゃないか号」なんてのも走らせられるワケです。この日の急行もりよしには「クイズバカ一代」云々という名が付けられていました。

まとめると、この列車は「急行もりよし」「秋田犬っこ列車」「おひな様列車」「バカ一代号」の実に一人四役をこなすのです。これだけの名前を同時に背負う列車というのは、他には知りません。

そんなわけで、この車両の内装は秋田犬と雛人形が同居する賑やかな内装になっています。観光列車らしい華やかさや明るさを感じる一方、素朴な面もあり、「地方の小さな鉄道の観光列車」としては非常にステキな列車だと思いました。


さて発車時刻……ですが、阿仁前田からの代行バスを待っての発車となった影響で、数分送れでの発車となりました。先述の通り内陸線の阿仁合以北は一部不通。この列車は本来であれば鷹巣~角館間を通しで運行するはずですが、やむなく途中で分断され、不通区間を代行バスでつなぐ形で運行されていたのです。

列車は軽快気動車らしい軽やかな走り出しで、阿仁合のホームを離れていきました。阿仁合での観光は楽しく、人情にも触れていい思いをしたので、少々名残惜しい気持ちがありましたが、急ぐ旅ゆえこれにて御免。

しかしこの先には、阿仁合観光に負けじ劣らじの楽しい急行もりよしの旅が待っていたのです。

アテンダントの活躍が光る

急行もりよしは観光列車としての性格が前面に出る列車で、アテンダントが乗務していました。

列車が発車すると、すぐにアテンダントの放送が始まります。内容としては、列車の紹介や沿線のエピソード・観光情報がメインです。

アテンダントの快活なトークが、車内を盛り立てます。内装と相まって、三セクによく見られる手作り感のある温かい観光列車の雰囲気になっていきます。ぼかぁこういう列車が好きなんですよねえ。

さて、沿線情報で気になったのが、先ほど伝承館でも触れた「根子番楽」の話題。もりよしは通過ですが、笑内(おかしない)が番楽の発祥の地とのこと。

根子番楽は、国が指定する無形文化財です。こういう民俗芸能があちこちに残っているのが北海道にはない地域性です。

山伏神楽をルーツとしつつも、源・平というふたつの大きな武家の流れを汲む人々により踊られ、勇ましさを感じさせるといいます。また歌詞も上流武士らしく文学的に優れているといいます。

今回は実際に見ることはできませんが、阿仁にまた行くことがあれば、日程に組み入れたいところです。


アテンダントの仕事は、放送だけではありません。

急行もりよしでは、アテンダントによる車内販売が行われます。特産物やお土産のほか、内陸線グッズを買うことができます。

ボクは内陸線のクリアファイルを購入(阿仁合駅でも売っていましたが買い忘れていた)。観光地などで食べ物以外のお土産にクリアファイルを買うことが多いんですよ。なんたってクリアファイルは、一通り眺めた後で旅行で手に入れたパンフレットや旅行で使った旅程表などを入れておくのに使えますからね。こういうところに、ボクの功利主義的な、そして悪く言えばつまらない性格が滲み出ますな。

車内販売は結構需要があるようでした。普通の特急列車と観光列車とでは、乗客が車内販売でものを買おうとする意欲が違うような気がします。逆に言えば、「買おう」という気持ちを呼び起こすような仕組みを作ることが、観光列車の成否を分けるカギのひとつといえるでしょう。

観光列車を楽しみ尽くそう、と思ったら、やっぱり車内販売は不可欠だと思います。全国的に特急列車の車内販売は縮小傾向で、それは労働者確保が難しく、客としてもコンビニで用が足りる場合がほとんどです(あるいは乗客が少ない)から、これは当然の成り行きです。でも、こういう列車には車内販売が残ってほしいし、そうあるべきだと思います。内陸線も経営が厳しいでしょうが、頑張ってほしいです。


アテンダントには、まだ役割があります。まだあるんですよ。

それは、乗客のサポート役としての仕事です。

アテンダントは、乗客一人ひとりに声をかけ、乗車証明書を配りつつ、きっぷのチェックを行ったり、降りる駅が近づいたら知らせたりと、車内全体に気を配っていました。

鉄道ファンであるか、少なくとも鉄旅に慣れているということがハッキリわかる行動を車内で繰り返していたであろうボクに対しても、アテンダントさんは「降りる駅に近づいたらお声をかけますので、きっぷを運転手に見せて……」と、列車の降り方を丁寧に教えてくださいました。

おそらくは、えちぜん鉄道などと同様に、バリアフリーの車両を持っていないことを逆手にとって、観光案内と乗客の乗降サポートを兼ねたアテンダントを乗務させて乗客を呼ぶというのが狙いでしょう。そうなると、杖をついている方などが乗ってくる場合なんかは、ドアのステップを上るときなどにアテンダントがそれを助けるような形になるのでしょう。

こう考えると納得の気配りですが、それにしても様々な役回りを一手にやっているアテンダントさんは凄いなあ、と素直に思います。

AN8900形で運行されなくなった「もりよし」が今なお急行である理由、そしてもりよしが観光列車として愛される理由、それがこのアテンダントの存在なのでしょう。

内陸線の看板列車でのひととき

で、ボクはそんな車内で何をしていたか、と言いますと――

まず、当然ながら車内の見学。犬の写真や雛飾りなどを見ていました。また車内は単行ながら座席がそこそこ埋まり、観光列車らしい賑わいがありまして、列車の明るく温かな雰囲気がさらに強調されます。

次に、車内や車窓の撮影(静止画および動画)。思い出の記録のほか、この旅行記や旅行動画を作るためです。これはいつもの通り。

もう一つが、おやつです。先ほど森吉山の麓のゴンドラ駅で買っておいた「比内地鶏 卵プリン」を食べます。

比内地鶏を味わえるということで買ってみたのですが、味が濃厚で実においしいひと品でした。やっぱり比内地鶏は絶品だじぇ。


食べたあとは、短い時間ではありますが、座席でくつろぎます。

先ほど申し上げた通り、AN8805は「犬っこ列車」にリニューアルされています。それも、つい何日か前に出場したばかりだったようです。

座席もリニューアルされており、座っていると新車と同じような匂いがするのがわかりました。また、座り心地も朝に乗ったAN8806より良くなっていました。

さらに、車内にはフリーWi-Fiが整備されています。沿線の一部地域では4G回線すら使えないところがあるというのに、かなり思い切った設備投資です。もっとも、路線の性質上トンネルが多いなどの問題があり、常にWi-Fiが使えるというものではありません。

課題を挙げるとすれば、トイレが和式という点。ここは外国人旅行客が来る可能性を考えると改善したいところですね。スペース的に厳しいかとは思いますが……。

くつろぎつつも、車窓にも目を向けます。鷹巣口よりも平地が少なくなり、山めいた地域に入っていきます。

正面に山がそびえ、時折川を渡る、という渓谷の風景が続きます。白く輝く雪とともに、はっとするような美しさで、ボク個人としても非常に好きな車窓風景です。


急行もりよしの旅は、想像していたよりもずっと楽しいものでした。

実のところ、ボクは内陸線自体には乗り鉄としても(自称)研究者としてもあまり興味がなく、単に「廃止が取り沙汰される特定地方交通線出身の三セクの一つ」という以外にはイメージがありませんでした。

だから、2年前に乗った三陸鉄道とは違い、「乗りに行った」という感じではなく、単に内陸線を「行きたい観光地に行くための手段として使った」のです。もちろん、乗り鉄として「青森から首都圏までJRだけで、というのも味気ないので、他の鉄道会社も入れたい」というのはあるにはありましたが、あくまで先に観光地を決めて、その結果として内陸線に乗ることとなったのです。

しかし、内陸線に乗っているうちに、だんだん内陸線が好きになっている自分がいました。

三陸鉄道も一度乗って好きになりましたが、内陸線も三陸鉄道と同様、温かい雰囲気や朗らかな観光列車があり、地元客から愛されているところが、ボクの心を掴むのです。

ほかにも、駅員やアテンダントの細やかな心遣いを受け、乗客を大切にするという心意気を感じました。

さらに、内陸線での旅をしている中で、豊かで温かな地域の良さを感じることができました(この先の行程でもそれを感じることになります)。これはボクが秋田を好きな理由の一つでもありまして、この地域が好きになったからこそ、その地域から愛されている鉄道を、ボクもまた好きでいたいと思い、内陸線を好きな路線と思う気持ちが一層強くなるのです。

たしかに内陸線の需要は非常に細いものではありますが、これほど豊かな地域に観光客が来ないことは不幸なことであり、内陸線が観光客の呼び水としての役割を果たしてほしい、と考えました。輸送単位云々の議論を抜きにして、内陸線はボクにとって応援したい路線の一つとなりました。

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