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札幌~函館間 歴史 第7章 再起をかけて / 北の特急(+α)図鑑

安全を守るために

安全対策とは、終わりのないトンネルを走り続けるようなものです。ゴールなどなく、あるレベルの安全を達成したら、すぐに上のレベルの安全を目指して走り始めなければならないのです。そうやって、これまでの鉄道の歴史の中で、安全が培われてきたのです。

一方で、ひとたび安全を脅かすような失態があれば、乗客を危険にさらすだけでなく、鉄道会社は一気に信頼を失ってしまいます。一度失った信頼を取り戻すには、長い時間をかけて積み重ねるほかありません。

北斗が再び沿線の信頼を得るための、長い長い道のりが、始まりました。


まず、全社的な取り組みとして、安全意識を高めるとともに、安全のために必要な投資をしっかりと行うように、方針を改めました。

例えば、運転士が「おや」と思ったら、すぐに列車を停める、という意識を徹底することとしました。定時運行を守ろうとするあまり、列車を停めようとしない、という雰囲気を改めることが目的です。

また、保線の経費を抑え、浮いた分を他の安全対策に回すため、幹線のレールの枕木をPC枕木に交換する工事を急ぐこととしました。今までは後回しにされていましたが、函館方面は7年(!?)前倒しでPC化を完了させることとしました。最後まで残っていたのは、特急が走らない砂原支線でした。平成26年に、下り普通列車1本を駒ヶ岳まわりに変更(砂原支線区間はバス代行)し、工事が行われました。

続いて、北斗に関する部分。まず、新しい車両の投入については、スーパー北斗のために温めていたキハ285系の開発が中止されたことで、当面はキハ261系1000番台を造ることとなりました。この車両は平成19年に登場し、札幌~帯広間の特急「スーパーとかち」に充てられていましたが、他の列車にも投入すれば、車両を共通運用することができます。予備車を減らせるうえ、車両を統一することでメンテナンスもグッと楽になります。

そのキハ261系は、当初使っていた空気バネ式車体傾斜装置の使用をやめることとしました。これは噂に過ぎませんが、車体傾斜装置を使った場合、キハ261系の燃費はあまりにも悪いといいます。コストをかけずに高速化を実現できる機構ではありましたが、最高速度を120km/hに落とした現在となっては、かえって高コスト要因となってしまっているようです。

ボヤのあったキハ281系にも、発火を防ぐための対策が施されました。トラブル自体は、乗客・乗務員に危険はありませんでしたが、大事をとって対策を打つこととしたようです。

キハ281系といえば、スーパー北斗は減速減便ダイヤ改正以前は多客期の増結が行われることが多かったのが、それ以降は滅多に増結される場面がみられなくなりました(キハ183系の北斗は増結がみられます)。振り子を使って高速運転する中で、キハ281系の車体が傷んできているのは想像に難くありません。キハ281系の負担を軽くすることで、安全を確保するというだけではなく、「2031年に全通させる」と一部政治家が息巻く北海道新幹線の札幌延伸まで使い続けられるように、キハ281系を使いつぶさないようにする、という目論見もありそうなところ(公式発表こそありませんが……)。

また、前章の通り、キハ183系36両に対するスライジングブロック破損対策工事が行われました。

さらに、エンジン自体が古いことから、北斗用のキハ183系のうち22両に、エンジン交換などの重要機器取り替え工事が行われました。主に、エンジンと変速機をキハ261系1000番台と同じものに交換する改造です。平成26年5月に第1号が登場し、その後順次改造が行われていきました。

出力は先頭車は330PSから460PSの大幅出力アップですが、中間車の場合660PSから460PSと、一気に200PSダウンします。130km/hで走ることがなくなったうえ、エンジンが軽くなり、変速機も新型に交換したとはいえ、速度種別が特通気A25から同A3にまで落ちてしまったようで、同A10であるN183系だけの編成より遅いという逆転現象が発生しました。ただ、何とか所要時間3時間台は守っているので、致命的な性能ダウンとは言えません。

北斗用のキハ183系は、早いものでは昭和61年製であり、平成26年時点で車齢が28年と老朽化が進んでいます。しかし、短期間で大量の車両を置き換えなければならない現状、キハ183系基本番台に比べれば経年の浅い北斗用の車両については、修繕を行って使い続けるという判断がなされたものと思います。


コストを抑えつつ、安全対策を推し進めるJR北海道。甲斐あってか、年末年始の利用は少しながら持ち直したようです。ただ、夏季の利用は漸減する傾向が続いており、列車運休・減速減便があった時期ほどの落ち込みこそないもののジリ貧の様相です。

JR北海道はまだ、最初の何歩かを歩いたに過ぎません。安全性を日々向上させ、沿線の信頼を取り戻すには、気の遠くなるような時間と労力が必要でしょう。

しかし、「千里の道も一歩から」と言います。最初の一歩は、大きな一歩であるといえるでしょう。

北斗、躍動 ~新幹線との接続開始~

平成28年3月26日。北海道新幹線の新青森~新函館北斗間が開業し、北海道の特急網はまた新たな時代に突入します。

まず、青函トンネルを走る一般の旅客列車がなくなるため、寝台特急カシオペアと急行はまなすが廃止。ただし、新幹線開通にあたって最終工事があるため、津軽海峡線が3月22日から運休となったので、実質的には21日出発の列車をもって廃止となっています。

なお、先立って前年の3月にトワイライトエクスプレスが、8月に北斗星がそれぞれ廃止されています。

ほか、快速アイリスが普通列車に格下げ。急行せたなの名残で設定されていましたが、改正後は特急スーパー北斗2号に追い抜かれるダイヤとなり、快速としての意味を失いました。ちなみに、老朽車両の使用をやめるために全道で乗客僅少の普通列車が大幅に間引かれました。

図1:キハ261系1000番台の特急スーパー北斗。塗装変更の最中なので、写真の列車は新旧塗色が混ざった編成となっています。平成初期のキハ183系の塗り替え時にも混色編成が見られたようで、それを彷彿させます

去る者あれば来る者あり。この改正では、スーパー北斗が3往復増発され、9往復に減っていた北斗全体の本数は12往復に増加しました。

多客期の需要に応えるというのもさることながら、北斗が(一応は)新幹線と接続する列車となったため、新幹線とセットで増強することで利便性を向上させる狙いがあるのでしょう。

さらにハイシーズンや連休を中心に臨時の北斗が上下合わせて1~4本設定されるようになりました。臨時北斗は以前からありましたが、この年から運行頻度が大幅に上がり、季節列車のような存在になりました。定期北斗と合わせてフリークエンシーを大きく向上させ、質の向上に貢献しました。

しかし一方で、列車の号数は新幹線のそれとは合わせていません。たとえば、東京発・新函館北斗行きの「はやぶさ1号」に接続する列車は、スーパー北斗9号となっています。改正前の特急「スーパー白鳥」「白鳥」が接続する新幹線と号数を合わせていたのとは対照的です。ここから、JR北海道が北斗をあくまで「札幌対道南の都市間列車」と位置付けていることが読み取れます。

スーパー北斗の8往復中3往復には、キハ261系1000番台が投入されました。この車両はまさに塗装変更の真っ最中で、新しい外観デザインの車両がすでに出ていました。文字通り、北海道の看板特急に、新たな「顔」が誕生したのです。

札幌~函館間の所要時間は、最速で3時間27分と微妙に短縮。昭和63年の時点で北斗1号(現在と同じ最高120km/h)が3時間29分で走破してはいましたが、あちらは途中停車駅わずか3駅、平成28年のスーパー北斗2号は11駅停車。タイム自体はほぼ同じですが、それが持つ意味はまったく異なります。

1列車あたりの輸送力も増加。キハ261系1000番台のスーパー北斗は通常8両編成。従前は通常5両だったキハ183系の北斗も、NN183系で運転される3往復は通常7両、N183系中心の編成で運転される1往復は通常6両となりました。

さらに増結を行うことも多くなりました。北斗の場合はプラス1両程度の増結で、7~8両編成。キハ261系のスーパー北斗の場合は、なんと最大10両編成です、10両! 10両!!

こうした輸送力アップは、JR北海道が平成28年の課題とする「新幹線の開業効果の最大化」が目的と考えられます。北斗が満席だと、北斗に乗り継ごうとする新幹線の客が飛行機に流れてしまい、北斗だけでなく新幹線の収益も落ちます。これを回避するには、輸送力を増やして空席を作ればいいワケですな。

キハ261系・キハ183系が華々しい長編成という晴れ姿を見せる一方、キハ281系は頑なに7両のまま(それでも道内では長い方ですが……)。やはり、「キハ281系には無理をさせられない」との経営判断があると推測せざるを得ません。老朽化の一段の進行か、新幹線札幌延伸を見据えた延命か。今は、知る由もありません。


それから2年間で、老朽化が進み、サービスレベルもやや劣るキハ183系の置き換えが行われました。

翌平成29年3月4日の改正では、主にN183系の6両編成で運行されていた北斗6・19号の車両がキハ261系1000番台に替わり、名称も「スーパー北斗」となりました。翌年の3月17日の改正では、残るNN183系運用の3往復もキハ261系1000番台の「スーパー北斗」となり、定期のキハ183系「北斗」が消滅しました。

このほか、平成29年の改正で、定期の「スーパー北斗」「北斗」全列車の基本編成が7両となりました。車種によって定員数や座席配置が若干変わっているとはいえ、利用客目線でわかりやすい設定となったといえます。加えて、他サイト様で指摘されている通り、他形式での代走がしやすくなったというメリットが挙げられます。これにより、全体で見て輸送力がやや落ちました。

また、平成29年以降は多客期の増結もやや抑制され、キハ261・183系は増結時でも8~9両編成での運行が多くなり、キハ261系の10両編成はあまり見られなくなりました。実態に鑑みての調整というところでしょうか。

札幌~函館間 最速列車の変遷(精査していません)
年月日最短所要時間列車名表定速度
昭和35年7月1日5時間0分下り急行すずらん64.2km/h
昭和36年10月1日4時間30分特急おおぞら(下り・上り両方)71.4km/h
昭和43年10月1日4時間15分下り特急おおぞら75.6km/h
昭和47年3月15日4時間8分下り特急おおぞら3号77.7km/h
昭和48年10月1日4時間5分下り特急おおぞら1・3号78.0km/h
昭和61年3月3日3時間56分特急おおぞら7号81.0km/h
昭和61年11月1日3時間47分特急北斗1号84.2km/h
昭和63年3月13日3時間29分特急北斗1号91.5km/h
平成6年3月1日2時間59分特急スーパー北斗2・19号106.8km/h
平成12年3月11日3時間0分特急スーパー北斗17号106.2km/h
平成25年11月1日3時間26分特急スーパー北斗1号92.8km/h
平成26年3月15日3時間28分特急スーパー北斗7号91.9km/h
平成26年8月1日3時間30分特急スーパー北斗7・11号91.1km/h
平成28年3月26日3時間27分特急スーパー北斗2号92.4km/h

※上表の平均表定速度について、昭和48年に千歳線の営業キロが変更となった点に留意ください。

※これ以外にも、数分単位の変化、および最速列車が走る時間帯(=号数)の変化がありました。

今後の展望

さて、再出発なった北斗ですが、大票田である札幌~函館間の都市間輸送について、明るい青写真を描ける状況とはいえません。

全道的な傾向ではありますが、札幌近郊以外では人口減少が続いています。札幌エリアでさえ、いずれは人口が減り始めるでしょう。さらに高速道路は伸びてゆきます。そんな中、沿線の信頼が薄れ、高速化ができる状態にない北斗が、明るい未来を描くことはできません。

定期列車だけで見ても輸送力が約1.5倍に増大したにもかかわらず、ハイシーズンの利用は横ばい。高速道路に対する競争力の相対的な低下に加えて、新幹線の遅さが響きました。新幹線の新函館延伸も、やはり北斗復権の切り札とはなりませんでした。

また、車両の劣化も進んでいます。キハ183系は撤退しましたが、今度はキハ281系の老朽化が大きな問題となるでしょう。


一方で、外国人旅行客の増加により、北斗は新たな局面を迎えようとしています。

中国人旅行客に洞爺湖が人気と風のうわさで聞いていますので、洞爺駅の利用が伸びていると思われます。また、2020年度にオープンする白老のアイヌ象徴空間への観光客のことも考える必要があります。

将来的には、停車駅の追加など、さらなる変化が必要になるでしょう。


なかなか芽が出ない北斗ではありますが、それでもなお特急列車として維持できるだけの、そして維持すべき程度の需要が存在します。

一定の速達性のある移動手段として、冬でも安定的な輸送ができる交通機関として、環境面で優れる大量輸送機関として、観光客の周遊ルートの幹として、北斗の社会的な役割は微塵も損なわれていません。今後も、北斗という特急列車を維持し、安全性やサービスを向上していく必要があります。

遠く険しい道のりですが、スーパー北斗・北斗のさらなる躍進を願ってやみません。

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