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千歳線の「停車駅逆転」と「閑散特急」 ~特快エアポート・特急すずらん~

北海道の鉄道における、押しも押されぬ"エース"、それが新千歳空港と札幌・小樽を結ぶ「快速エアポート」

令和2年(2020年)のダイヤ見直し(まかり間違っても「改正」ではない)で、快速よりも停車駅が少ない「特別快速エアポート」が仲間入りしました。

朝の札幌発・空港行きと、夜間の空港発・札幌行きがそれぞれ2本。途中の停車駅は新札幌と南千歳だけで、同じ線路を走る特急列車の大半と同じです。

そのため、特別快速エアポートは人口約10万人の街の中心である千歳駅を通過するのです。


一方、札幌と苫小牧・室蘭の間を走る特急「すずらん」は、千歳駅に停車します。

すずらんは比較的短い距離を走る列車ということもあり、他の特急よりも停車駅が多めです。

もっとも令和2年のダイヤ見直し以前は、千歳を通過する快速列車が無かったので、さして話題にもなりませんでした。

ですが、今は「特急が停まり、快速が通過」というある種の「逆転現象」が取り沙汰されることが増えています。


ある人々は、「列車にはというものがあるだろう」と言います。つまり、特急は快速よりも「格」が高いから、その「格」に従って、特急は快速よりも停車駅が少なければならないのだと。

「格」を抜きにしても、特急すずらんの立ち位置は中途半端に見えてしまうこともあるようです。もともと「特急北斗の脇役」という感のある列車で、空いている便も多く、そこに「停車駅の逆転現象」まで起きてしまったわけで……。

風当たりの強いJR北海道という会社の列車ということもあってか、すずらんは以前にも増して槍玉に挙げられることが増えたように思います。やれ「減便しろ」、「廃止しろ」、「快速に格下げしろ」――

というわけで今回は、「特別快速エアポート」と「特急すずらん」、この2つの列車について、いろいろ考えてみようと思います。

停車駅の「逆転現象」を考える

第一のテーマ。「千歳に停まらない特快エアポート」と、「千歳に停まる特急すずらん」、これはおかしいことなのか。

ハッキリ言いましょう。特急が停まる駅を快速が飛ばそうが、何の問題もありません。

そういう停まり方がされるということは、何か理由があるわけです。それが合理的なものである限り、無問題です。「格」など、何の反論にもなりません。

では、その「合理的な理由」とは?

「遠近分離」とは

「遠近分離」という言葉をご存知でしょうか。

ザックリ言うと、「各駅列車と速達列車を設定して、短い区間だけ利用する人を各駅列車に、遠距離を移動する人を速達列車に誘導する」方法です。


具体的な例を見た方が早いでしょう。

東京の新宿区と北多摩・埼玉県西部を結ぶ西武新宿線は、遠近分離のわかりやすい例です。

新宿線では主に「急行」と「各駅停車」が運行されますが、急行は高田馬場から田無までの間は通過運転を行い、この間の途中停車駅は鷺ノ宮と上石神井だけです。特にターミナル駅に近い高田馬場~鷺ノ宮間は6駅連続通過です。一方、田無から小平・本川越方面は各駅に停まります。

新宿・高田馬場に近い駅で、急行が停まらない駅は、各駅停車しか使えません。ですが、これによって急行は都心近くの短い区間だけを乗客を受け持たずに済みます。急行は遠距離客、各停は近距離客をターゲットにするという、役割分担なのです。

ラッシュ時にはさらに「準急」が運行されます。こちらは高田馬場・鷺ノ宮・上石神井と停まり、それより西は各駅に停まります。普通列車との関係では、急行と同様に長距離客を主なターゲットに据え、一方で上石神井~田無間の途中駅の乗客を受け持つことで、急行との関係で見ると近距離をターゲットにしています。

このほか、土休日に1本だけ新宿発・本川越行きの「快速急行」が運転されます。川越への観光客の利便性をアップさせるために設定された種別で、急行が停まる鷺ノ宮・上石神井を通過し、遠距離に向かう乗客に特化しています。

(令和4年9月19日現在のダイヤです。なお他にも種別がありますが、省略します。)


新宿線は高田馬場に近いほど乗客が多く、西に行くと乗客は少なくなっていきます。遠近分離は、こういう場合に効率的なダイヤを実現できます。

もし全ての列車を各駅列車としてしまうと、近距離客も遠距離客もいっしょの列車に乗ってしまいます。列車が混雑して不便になりますし、場合によっては乗客が乗り切れず、鉄道会社にとっても乗客を失うリスクになってしまいます。

それを防ぐため、終点まで行く列車の本数を増やすなどして輸送力を多くする方法もあります。でも、そうすると乗客が少ない西の方の区間ではガラガラの状態で走ることになり、余計にコストがかかってしまいます。

各駅列車だけでなく、近距離客が多く利用する駅をなるべく通過する速達列車も設ける。こうすることで、遠距離客と近距離客を分離できるので、コストを必要以上にかけることなく、混雑に対処できます。また、遠距離客は途中駅を通過して速く移動できるので、便利になります。

途中駅は停車本数が減ってしまうので、近距離客にとってはある意味不便になります。ですが、各駅列車も遠距離客が乗らなくなって、混み合う車内で過ごす苦痛が和らぎます。また、混んでいると途中の駅で乗客を掻き分けて乗り降りしなくてはならないところ、それをしなくて済むので、その意味でも楽になります。

千歳「通過」の特快エアポートと「遠近分離」

特別快速エアポートは、停車駅を絞ることで札幌市内からの新千歳空港アクセスにターゲットを絞った列車です。

ご存知の通り、エアポートという列車は「空港アクセス」と「生活利用」両方の需要が高い列車です。沿線には札幌以外にも北広島・恵庭・千歳と、ある程度の人口規模がある街が並び、北海道としてはかなり往来が多いエリアとなっています。

特に朝の空港行き、夜間の空港発・札幌方面行きは、空港利用者が多い時間帯となり混雑が激しくなります。空港利用者はキャリーバッグなど大きな荷物を持っている場合も多く、混雑に拍車をかけていました。

実際、10年ほど前ですが空港に朝8時前に行く用事があり、快速エアポートの自由席を利用した際、札幌から空港までずっと721系の通路いっぱいに乗客が立っていました。(古い話なのは、それ以降同じ時間帯のエアポートをめったに使っていないため。だってたいてい普通列車2726Dか北斗2号か早朝の飛行機使うんだもん。

また、ふだんJRを利用する中で、快速エアポート76号がけっこう混んでいるのを知っています。

夜の時間帯についても、数年前のある時期に厚別区体育館をトレーニングなどで時々利用していて(近所の体育館が改修中だった)、その帰りに新札幌21時頃発のエアポート205号を使っていたのですが、こちらも大荷物の乗客がたくさん乗っていて、めったに座れなかったのを覚えています。

この空港アクセスが多い時間帯に、空港輸送に特化した特快を設定することで、札幌・新札幌~空港間を乗り通す乗客を特快に誘導したわけです。


ここで、特快エアポートが「千歳に停車する場合」を考えてみます。

千歳は人口約10万の都市で、昼間人口は100%超、札幌から千歳に通勤・通学する人も多いようです。

千歳に停まってしまうと、札幌市内から千歳に通う乗客も、特快を利用することができてしまいます。結果、遠近分離の効果が薄れてしまうのです。

北広島・恵庭・千歳を、あえて全て通過とすることでこそ、空港アクセスへの思い切った特化が可能となるのです。おそらくJRは、この点を考慮して停車駅を決めたのだと思います。

もちろん、単純に(特快ではない)「快速エアポート」を増発することでも混雑緩和は可能ですし、さらには途中駅も便利になります。それでも、JRはあえて「特快」を設定しました。おそらく、エアポート以外にも普通列車、特急、貨物列車が多数行き来する路線であるためダイヤに大きな制約がある中で、朝・夜の利用者の特性、「最速33分」というセールスポイントづくりなど、いろいろなことと相談した結果、「特快を設ける」という結論になったのでしょう。

特快が通過する北広島・恵庭・千歳を利用したい場合でも、従来より列車が混まなくなっているでしょうし、そもそも特快エアポートは「快速の格上げ」ではなく「増発するエアポートの一部を特別快速とした」ものであって、途中駅の停車本数を減らしたわけではありませんから、悪くはなっていないはずです。

なお、特快エアポートが「朝・夜だけ」しか設定されていないことについては、今回の本題とずれるので、別の機会に論じてみようと思います。

千歳「停車」の特急すずらんと「遠近分離」

途中区間の通勤・通学客がたくさん乗ってしまうと具合が悪いのは、特急すずらんも同じです。

では、なぜすずらんが千歳に停まっても、問題無いのか。

……画面の前のあなたに伺いましょう。もしあなたが札幌から千歳に通うなら、特急すずらんを使いますか?

おそらく、こう聞けばほとんどの人が「いいえ」と答えるでしょう。理由は間違いなく、「お金がかかるから」です。そうですよね?

そうです。ほとんどの乗客は、札幌~千歳ですずらんを使いません。簡単な話で、すずらんは「特急」だからです。乗車には、特急料金が必要になります。

こういう「特別料金」は、ある意味で「遠近分離」を実現する一番簡単な仕組みといえるでしょう。

多くの人は、近距離では特急料金を支払おうとしません。遠距離で乗る場合は、速達性や快適性が大事になるので、料金を支払う人が多くなっていきます。結果、近距離客は無料列車(JRだと普通・快速)に、遠距離客は有料列車(JRだと特急など)に、自然と棲み分けがされるわけです。

中には、多少の料金を払ってでも、座って通勤・通学したい人はいるでしょうが、その数は多くはありませんので、問題ありません。むしろ、特急料金によって十分棲み分けができているので、こまめに停車して近距離の着席需要を拾い上げ、特急料金を取って増収を狙うというのも、一つの利益戦略となってくるのです。

感心こそすれ、おかしい点はない

「千歳通過の特別快速」と、「千歳停車の特急」。これだけ切り取って見ると、「なんか変だな」と思うこともあるのかもしれません。

しかし、こうして2つの列車の性格をよく考えてみると、十分に納得がいきます。

見事な停車駅設定と感心はしますが、どこもおかしくはありません。

特急すずらんの立ち位置はこのままで良いのか?

第二のテーマ。特急すずらんは、今の立ち位置で良いのか。それとも、何かいじくるべきか。

……これについては、現時点で筆者の立場からはっきり意見するのはやめておきます。今よりもスマートな運行体系に変わるならば、いち利用者(年数回しか乗りませんが利用者は利用者です!)として歓迎しますし、良い案が無ければ現状のままで良いと思います。

ただ、あちこちで言われるような「リストラ論」には、賛同することはできない――とだけは言っておきます。

すずらんの「立ち位置」を整理する……主に特急北斗との関係で

まず、特急すずらんがどんな列車なのか、あらためて整理します。


特急すずらんは札幌~東室蘭・室蘭間に1日6往復運行される特急です。札幌~東室蘭は特急北斗が主役で、すずらんはそれを補完する立場です。

こう言うと、「これもさっきと同じように遠近分離なのでは?」と思われそうですが、それは違うと思います。

確かにすずらんの方が停車駅が多く、それっぽく見えはします。ただ、北斗はビジネス・所用客の多い札幌~苫小牧、観光客の多い札幌~登別など、短距離の乗客を排除していません。また、日中はすずらんの本数が少なく、北斗が受け持っている短距離客を大量に引き受けることはできません。「遠近分離」と言える体系ではありません。

仮に、たとえば首都圏の特急「ひたち」「ときわ」、あるいは「あずさ」「かいじ」のような、遠近分離を狙う形にする場合を考えてみます。たとえば、北斗を思い切って苫小牧・白老・登別通過とし、その分日中のすずらんを増発する場合。

この場合の問題点は二つあります。一つは、札幌~東室蘭間の本数が、需要に比べて多くなりすぎること。

もう一つが、胆振中部から胆振西部・渡島地方に向かう乗客に、東室蘭での乗り換えを強制してしまう点。たとえば、「ウポポイ」のある白老や、有名観光地の登別から、同じく有名な洞爺・函館、新幹線乗換駅の新函館といった駅に向かうのに、かなり不便になってしまうのです。乗り換えをいとわないマニアなどの人種ならともかく、ふつうは乗り換えは嫌なものです。

こうして考えると、あえて遠近分離をする必要はないと言えます。


すずらんは「遠近分離」を目的とした列車というよりは、単純に北斗の「補完」と考える方が良いでしょう。

北斗の運行区間の中で、比較的需要が高い札幌~東室蘭間の本数を増やし、運行間隔を狭めることで乗客の時間の都合に合いやすくする(いわゆる「フリークエントサービス」)とともに、混雑の分散を図る……というのが、日中のすずらんの役割と言えます。

また朝夕は、札幌~苫小牧・室蘭などのビジネス需要をターゲットとして、堅実に利用客を集めています。北斗が走らない時間をカバーする意味合いもあります。

停車駅が多いのは、遠近分離ではなく、単に「その方が稼げるから」でしょう。競合する高速バスに対して時間面でじゅうぶん有利なので、北斗のように停車駅を絞って所要時間を短縮する必要性があまりないため、その分きめ細かく停車して、通勤などの需要を拾うことが狙いでしょう。


なお、すずらんは令和2年ダイヤ見直し以降、4号車の「uシート」だけでなく、3号車も指定席としています。

すずらんは短距離の特急で、利用者の大半は自由席を使います。指定席需要もありますが、それは「uシート」の商品性があってこそ。何の特徴も無い座席を指定席にしても、既存の乗客はほぼ見向きもしないはずです。実際、3号車は筆者が見ている限り、例外無くがら空きになっています。

筆者は、この3号車の指定席化を「団体需要への対応」が目的であると見ています。

以前、春の大型連休にすずらん9号に乗った際に、指定席が団体利用のため満席で乗れなかったという経験をしたことがあります。これは、北斗の指定席が埋まっていて、短距離(おそらく登別→札幌)で特急を使う団体がすずらんに流れてきたことによるものと推測しています。

ふつう、団体は比較的短い距離でも指定席を利用します(一部の不埒な業者による、俗に言う「自由席特攻」を除く)。従来のすずらんはこのニーズを満たせなかったので、団体は主に北斗を使っていたと考えられます。

インバウンド需要が増え、さらに「ウポポイ」開業により札幌~白老間の団体需要が増えると、北斗が混雑する時期に団体が座席を取れないことが増え、団体需要が他の交通手段に流れてしまいかねません。また、北斗は長距離列車ですから、短距離の団体需要を大量に受け持つ状況は好ましくありません。

すずらんの指定席を増やせば、筆者が目撃したような団体利用がしやすくなります。

自由席は減ってしまいますが、需要量を考えると3両でも足りると判断されたのでしょう。

(ただし、需要が最も高いすずらん3号は、このあおりを食らって自由席が混んでしまっています……。座れないことはあまりないとは思いますが、指定席がガラガラなのに自由席が混んでいるのも具合が悪いあたり。ネット割引やチケットレスの拡充・価格調整などで対応してほしいところ。)

この「団体需要への対応」という点でも、すずらんは北斗を「補完」する列車であると言えます。

※追記(令和5.9.14)

令和5年(2023年)に入ってから、JR北海道はイールドマネジメントの強化を図るため、特急指定席の販売を強化しています。

省力化・省人化が可能で、列車の需要に見合った値段付けがしやすいインターネットでの指定席特急券販売を推進するため、えきねっとの会員登録キャンペーンを実施。その一環として、10・11月には特急すずらんに初めて「お先にトクだ値」が設定されました。

外国人旅行者向けに販売している「札幌-登別エリアパス」「札幌-富良野エリアパス」でも、10月発売分から特急列車の指定席を利用可能としています。

すずらんの指定席2両化は、団体需要への対応もさることながら、こうした指定席への移行の流れを先取りした施策でもあったと評価できましょう。

なお、指定席販売による「イールドマネジメント」については別記事にて詳説しています。

減便・格下げは良い方策とは言えない

そんな特急すずらんですが、乗客の多い列車ではないのは確かです。朝の1・2・3号はともかくとして、日中は空席が目立ちます。

いっそのこと、朝以外の列車は削減してしまって、北斗を使ってもらうようにした方が、コストが浮くのではないか。そうした意見が挙がることがあります。

ですが、それはうまく行かないでしょう。

空席が多いとはいっても、100名に近い乗客がいる便もあります。一定の需要が確かにあるのに、それをわざわざ捨てるようなことをする必要はないでしょう。

乗客が少ない便もありますが、それでも削減は得策ではありません。

まず、すずらん6号は比較的利用の多い9号の送り込みです。

それ以外で、前後時間帯の北斗の自由席で代替できそうな便……たとえば4・7・8・11号を削るにしても、北斗の自由席は日中でも一定以上の需要があるので、削減する便の前後を走る北斗を、それぞれ1両増結しないと厳しいです。さらに、それと運用が繋がっている便も増結することになるので、合わせて北斗6往復で増結となってしまいます。

短距離需要のために、318.7kmの距離で増結……それよりかは、短編成の区間便を2往復走らせる方が良いでしょう。

電車なので動力費が抑えられる上、先ほど説明したフリークエントサービスを提供でき、団体需要も分散させられるので、なおさらです。


減便のほか、「快速への格下げ」という主張もあります。

これもまた、上策とは言えません。

快速化する場合、千歳線内の短距離利用との棲み分けができなくなります。まさに先ほど説明した「特別料金を課すことによる遠近分離」が効かなくなるためです。

コストを削るために格下げをした結果、座れなくなってバスや自家用車に乗客が逸走する、という事態が簡単に想像できます。長距離の、しかも着席サービスを求める高単価の乗客をみすみす逃がしてしまっては、本末転倒です。

それだけではありません。そもそも「快速」というモードが、札幌~苫小牧はともかくとして、それより先の白老・登別・室蘭とを行き来する乗客に、受け容れられるでしょうか。

すずらんの競争相手は、安価かつ着席保証がある高速バス、さらには室蘭まで全区間4車線で最高速度100kmの高速道路です。「格下げ論」は、この点をまるっと無視しているようにしか思われません。

「コストダウン」は公共交通を良くするための「一つの方法」に過ぎない

こうした安易な縮小論は、線区の実態に合っていないばかりでなく、ほんらい公共交通について考える際に一番重要であるべきことを見落としているきらいがあります。

それは、「公共交通を使うのは、乗客である」ということ。当たり前ですが、意外に見落とされているような気がしてなりません。

そもそも公共交通……もっと言うと「交通」というものは、人が移動することで発生するさまざまな「便益」を得ることが目的のインフラストラクチャです。その「便益」は誰が得るのかというと、まずは当然ですが「利用する人」です。

ということは、公共交通について考える時に、まず誰の視点に立って考えなければならないか?

答えはおのずと導かれるでしょう。「乗客」であるはずです。


「コストダウン」そのものを否定するつもりはありません。必要以上に費用をかけないことも、経営戦略ではとても重要です。また、あまりに利用が少ない路線や列車は、そもそも鉄道の強みを全く発揮できないため、整理されて当然です。

ですが、サービスを減らせば利便性はそれだけ落ちてしまうわけです。縮小・廃止ばかりを重ねても、「サービス削減→乗客逸走→サービス削減→乗客逸走→……」という典型的な「負のスパイラル」に陥るばかりで、その先には何もありません。紋切り型のコストダウン論は、そういった点をきちっと考えているようには思われないのです。

コストダウンが「目的」になってしまっては、本末転倒です。コストを抑えるのは、乗客をはじめとした社会のさまざまな部分にもたらされる「便益」を増やすための、あくまで「一つの方法」でしかありません。

あるいは、「金の無いJR北海道の列車だから」「人口の少ない北海道の話だから」という発想なのかもしれませんが、それは関係ありません。交通需要は紙の上、サーバの中ではなく、現場で起きているのです。であれば、「コスト」ではなく「乗客の目線」が出発点でないといけません。


蛇足を承知でもう一つ言い添えるなら、「コストを減らすこと」ばかりを考えるような発想では、ほんとうの豊かさは手に入れられないと筆者は確信しています。

目に見えない「価値」を企業が提示し、お客がそれにコスト以上の意味を見出してお金を払う……ということが、年月をかけて積もり積もって、やがて真に成熟した社会と、豊かな経済を築くのだと。

……まあ、これは受け売りなんですが、一人でも多くの方とこの感覚を共有したいので、あえて筆者としても言わせていただいた次第です。

鉄道のダイヤというものは、乗客の利便……それも、近距離・遠距離、定期・非定期などさまざまな乗客の利便と、経営資源……人、車両、線路容量、費用などなど、本当にいろいろなことを考えながら作っているものだと思っています。こういう風にダイヤの考察をしていて、「やっぱりプロはすごいなあ……。」と唸らされたことが、今まで何度もありました。

もちろん、ただ会社が出してきたダイヤを受け容れろ、と言うつもりはありません。利用者として不満を持つこともあるでしょうし(実際、筆者も多くの不満があります)、「地域の未来」や「公共交通の将来」を想う立場から意見するのも良いと思います。

ただ、それこそ「コスト」だけを見るとか、「列車の格」などという普通の利用者からしたら全くどうでもいいようなことをあげつらうとか、そうした狭い視点であっては、意味のある提案はできないのです。

「特別快速エアポート」と、「特急すずらん」。この2種・計8往復の列車を考えるだけでも、これだけ注目すべき点がある。やっぱり、交通って難しいなあ。そんなことを思いながら、列車に乗ったり、外から眺めたりする日々です。

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