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【番外特集】北海「鉄+チャリ」旅いいじゃないか プロローグ(前編)
序
(画像出典:電広堂 様)
「自転車」。
自分の好きなところに行けて、しかも排ガスを一切出さない、ステキな乗り物。
……とはいえ、車や鉄道よりはずっと遅く、体力も必要な乗り物です。
学生時代は、通学や近所へのお出かけに、よく自転車(シティサイクル)を使っていました。
しかし、社会人になり、経済力が増したことで、鉄道で行けるところはそれまで以上に鉄道で行くようになり。
車を買ったことで、買い物などのちょっとした用事は車で行くようになりました。
時間は有限ですし、仕事などで疲れている時にはそもそも自転車を漕ぐ気力も湧かないことが多くなっていました。「速くて便利」な鉄道や車ばかりを使う生活が、日常に。
そうして、以前は毎日のように使い倒していた自転車は、いつしか物置で埃をかぶるだけになりました。
鉄旅を愛してやまないボクですが、同時に鉄旅の「限界」も感じています。
社会人になってから、特にそれを感じるようになりました。時間に縛られがちな現状だと、都市間の移動こそ特急に乗れる経済力があるのでいいのですが、特急のネットワークから外れる場所や、線路のない場所に行くのが難しくなりました。本数の少ないバスや普通列車を待つ余裕がないのです。
そこで、マイカー、あるいは「レール&レンタカー」で、そうした場所を巡ってみました。
しかし、車で訪れても、何かが足りない。そんな感覚があったのです。
鉄旅だとたまらなく湧き上がってくるものが、ドライブには、ない。結局、車で行くというのは自分の部屋から直接目的地にワープするようなもので、そこに旅情や感性などはたらきようもないのです。
また、道中のふとした景色に心躍っても、「車を停めよう」と思う頃にはもう通り過ぎているか、そういう時に限って駐車場所がなく、結局そのまま通り過ぎる、ということが多々ありました。
こんなサイトをやっているくらいだから、もっと北海道のことを知りたい。でも、鉄旅では限りがあるし、車では行っても意味が薄い。
どうしたらいいんだろう。ここ数年、ずっと悶々としていました。
(画像出典:足成 様)
自転車で旅をする人はたくさんいます。個人Webサイトなどで、日本一周や鉄道廃線跡探索など、さまざまな旅行記を見てきました。ニコニコ動画にもたくさん動画があるのを知っています。
でも、それらはたいてい、ロードバイクやクロスバイク、MTBなどを使っています。
鉄道やバスと違ってダイヤの制約を受けず、車と違って「日常から非日常へ」の転換点を作れ、しかも好きな時に停まって景色を見られる。いいな、とは思うものの……。
もし自分が本格的な自転車に乗るとしたら、体力は付ければいいとしても、自転車のメンテナンスや、自宅から各地まで漕ぐだけの時間の確保が難しいだろうな、と思いました。
鉄道などの車内に持ち込む「輪行」という方法もありますが、そうなると「一度パーツを外して自転車を輪行袋に入れて列車に乗車、列車を降りたら再度組み立て」という手間がかかります。結局時間がかかってしまうし、何より難しそうだな、と。
折りたたみ自転車なら、輪行も比較的ラクです。でも、これも現実的じゃないような気がしたのです。
「シティサイクルで札幌を横断するだけでも大変なのに、それより車輪径が小さい自転車で、どうやって走り回るんだ?」……街乗り以外では、折りたたみ自転車は遅くて(漕ぐのが重くて)使い物にならないと思っていたのです。折りたたむのも、結局手間になりますし。
一度は思い浮かべた自転車旅も、結局廃案となり、ボクは引き続き「旅のスタイル」の暗中模索を続けました。
「うわ……。」
ある日、風呂上がりに自分の体を見たら、思わずため息が漏れました。
運動習慣が、年々薄れている。多忙とか、疲れとかを言い訳にして、体に気を遣わなくなっていたのです。自転車に乗らないので、なおさらでした。
危機感を抱いて、ランニングを始めるのですが、「いつもの通り」3日で続かなくなってしまいます。
インドア派な自分には、漠然と「生活習慣を改善したい」という以外の目標が無く、やる気が出ないのです。
このままでは、まずいな。そう思うだけで、何も変えられない自分に、げんなり。
最近、ニコニコ動画に「鉄道旅行記」があまり投稿されません。数年前はボクを含めて何人も上げている人がいたんですが、今はめっきり減りました。
「乗車録」「ウンチク動画」「鉄道事業者を茶化す動画」ならあるんですが、ボクが見たいのは「旅動画」。
まあそんなに言うなら自給自足すればいいんですが、ご覧の通り本業であるこのサイトの運営さえズタボロなので、作る余裕も無く。(苦笑)
(イラスト素材出典:いらすとや 様)
一方、バイクや自転車の旅行動画はたくさんあります。特に北海道の旅行記はバイクが大多数を占めます。
畑違いなので、そういう動画は見ていませんでした。でも、「バイク乗りや自転車乗りは道内のどんなところを回ってるんだろう」と気になり、視聴。すると――
鉄旅だけでは知る由もない、北海道が誇る迫力の絶景が、次々に出てきます。「自分は北海道のことをこんなにも知らなかったのか!」と、衝撃。そういう道を走るのはとても楽しそうで、ちょっと羨ましいとさえ感じました。
もう一つ、バイク・自転車の旅動画では、楽しそうにバイクや自転車の話をしていたり、景色に純粋に感動していたり、というのがひしひし伝わってきます。見ているこちらまで、楽しくなってしまうほどです。
「もっと北海道の楽しさを知りたい。」「楽しそうに旅してる動画がもっと見たい。」そう感じて、ボクはしばらくの間バイク・自転車の旅行動画にハマり、いろいろな動画を漁っていました。
破
令和3年(2021年)6月下旬の出来事でした。
その日オフだったボクは、仕事の疲れに加えて天気が悪いのもあって、何をする気力も湧かず、ぼけーっと旅行動画を漁っていました。
そんな時、以下の動画を見つけました。
(「はるみさわ」様 投稿)
(「ソロボッチ」様 投稿)
この二つの動画は、いずれも「折りたたみ自転車で北海道を旅する」動画です。
今まで、「折りたたみ自転車で旅は難しい」と思っていました。しかし、実はそれは単なる思い込みでしかなかったのです。
折りたたみ自転車にも、多段変速を備えたスポーツ仕様の車種があり、やろうと思えば一日100kmでも200kmでも走れることを、知りました。
(画像出典……左:足成 様 / 右:当サイト管理人撮影(方向幕が試運転なのはツッコまないでください))
そして、「輪行」という方法が、思っていたより楽だと知りました。折りたたみ自転車は、思っていた以上に手早くたためるのです。漕げる範囲で漕いで、後は鉄道というステキな乗り物に任せる、それでも結構効率がいいとわかりました。
何より。
自由に走り、ふとした瞬間の景色を愛で、自転車と公共交通を状況次第で切り替え、鉄旅も楽しめる、そんな旅が。
なまら、楽しそうだ。
動画を見終わって、わずか数秒後。
鉄旅の限界。ドライブでの満たされなさ。旅の楽しさと価値の追求。北海道の良いところをもっと知るための手段。ついでに、運動習慣。それらが、1本の線で繋がって。
「……買うか、自転車。」
即決でした。
「急いては事を仕損じる」という諺があります。特にボクの場合は「慎重打法」が性に合っているらしく、その場の発想をすぐ行動に移したり、思い付きで突発的に旅に行ったりと「強いプレイング」をやると、かなりの高確率で痛い目を見ます。
スポーツ仕様の自転車は高い買い物になります。しくじらないため、まずは冷静に情報収集から始めました。
とりあえず、「折りたたみ自転車で輪行」という旅のスタイルを掘り下げるため、まずはネットで検索。
すると、まるで予めレールが敷いてあるかのように、一冊の漫画にたどり着きます。
それが、「おりたたみ自転車はじめました」(星井さえこ 著、2021年、(株)KADOKAWA)。
いや待て、お誂え向き過ぎる。今ほしい情報そのものだし、出版年が今年って。
何か運命めいたものを感じつつ、まずはその本でイメージをつかむことにしました。どのみち、試乗や商談ができるのは次の休みで、次の休みは1週間後だったので、本を読みつつそれを待とうと。
で、読んでみて。
……思った通りでした。自転車旅だからこそ、360°に広がる景色を、好きなだけ楽しめる。風を感じながら、気ままに走れる。そうした魅力を、この漫画は語ってくれました。
そうは言っても、自分は本当にそれを楽しめるだろうか。なにせ、かつて自転車に乗っていた頃は、漕ぐことが「苦痛」と感じたことさえありました。
それを確かめるべく、家族の自転車を(無断で)拝借し、久々に自転車で近所を走ってみました(自分の自転車はパンクほったらかしで自走不能。そもそもずっと動かしていないのでどのみち動けないでしょう)。
すると、思いのほか楽しい。久々なので技術が落ちていたためゆっくり走ったのもあって、ほどよい運動になり、しかも夜風が心地よかったのです。用事でなく趣味で、かつ自分のペースで漕ぐ分には、問題なし。
自分はまだ、自転車に乗れる。楽しめる。そう確信し、本格的な検討に入りました。
まずは、ざっくりとでも予算を決めなければ。しかし、安いやつしか買ったことがないので、「いくらスポーツタイプと言っても、10万円もあれば用品含めてそれなりのが買えるでしょ」と思っていました。
ところが、いざ調べてみると、どうやら10万円では足りなさそうだ、とわかりました。
とりあえずの想定スペックは、郊外の道をある程度のスピードで、かつそれなりの長時間乗ることを想定した「20インチタイヤ」「8段以上の多段変速」というもの。しかし、この条件を満たす車種は、10万円程度かそれ以上のお値段が付いていました。
空気入れ・チェーンオイルといった用品を整え、さらにウェアなどの必要なものを買い揃えたら、初期投資額は確実に20万円を超えます。
前述の書籍で著者が乗っていた「ブロンプトン」で妥協しようかと考えるも、本体価格だけで20万円超え。妥協どころか、むしろこちらの方が高いという有様。
想定以上の値段に、一瞬尻込みしてしまうボク。
……いや待て。確かにイニシャルコストは高いが、払えない額じゃない。むしろ、得られるものはそれを大きく上回るのでは?
そう思い、改めて「自転車旅を始めるメリット」を、次のように洗い出してみました。
- 鉄道だと行きづらい場所に行ける。(①)
- ドライブよりも感性がはたらく。(②)
- ①より、公共交通のみを使う旅行・行楽と比べ、所要時間を短縮できる。(③)
- ①より、行動範囲が広がり、また②より、風景・文物に対する感受性が高まるため、旅や休日お出かけの充実度を向上させられる。(④)
- 運動習慣を付けられる。(⑤)
- 自転車旅の場合、鉄道利用の相対的な費用が小さくなる(鉄道で届かない分は自分の足で漕げばいい=「駅から目的地まで遠いから車にしよう」ということが減る)ため、交通手段として鉄道をより積極的に選択でき、現在取り組んでいるJR北海道支援に繋げられる。
- 鉄道旅行においてレンタカー無しで行ける範囲が広がるため、レンタカー費用が減少する。
- 鉄道での移動の場合に必要となる目的地までの二次交通の費用、およびドライブの場合の目的地付近の低速・高燃費走行、駐車料金が不要となるため、費用が減少する。
- ③④より、旅に出る・出かけることへの抵抗感が減るため、行こうか行くまいかの決断を早められ、余暇時間を有効活用できる。
- ①②より、より多くの「北海道の魅力」を知ることができ、当サイトの「北海道の魅力を探求・発信する」というテーマに大きく近づける。
- ②より、感性を効率よく鍛えられるため、当サイトの質的向上が早まる。
- ⑤より、病気などの予防により将来における医療費の期待値が低減する。また、他の手段で運動習慣を付けるための時間的・金銭的な(代替)費用が必要ない。したがって、健康に関する費用が減少する。
- ④⑤より、精神衛生を改善できる。また、それに伴い嗜好品・医薬品の費用が減少することが見込まれるほか、生活行動の効率改善による可処分時間の増加にも期待できる。
……とまあ、出るわ出るわ。「風が吹けば桶屋が儲かる」のごとく、どんどんスレッドが繋がっていきました。
もっとも、これでは流石に「ただ思いつく限り列挙した」だけ。きちんと定量的に考えましょう。
費用は、初期投資額に加えてパンク修理や点検などのランニングコストを見込み、一方で自転車旅用に用意するウェアを日常でも使うことを想定して、それに伴う日常の衣服費用の減少分を差し引きし、3年間で実質25万円と想定。
これに見合うメリットがあるかどうかを、数字に直しやすい部分だけピックアップして検討すると――
- 利用者(?)便益
- 時間短縮便益:60,000円/年 以上……年10回活用、1回あたり「行こうか行くまいか」考える時間を1時間削減、所要時間を1時間削減できるとして、時間利益を少な目に25円/分として計算すれば、それだけで年3万円。さらに「今まで鉄旅では行けなかったところに行ける」「ドライブより全力で楽しめる(「楽しさ」「価値」までのアクセス時間短縮)」も見込めば実質価値はさらに倍増すると想定。
- 費用節減便益:9,000円/年……鉄旅・ドライブのラストワンマイルに活用。1回あたり500円を見込む。またレンタカーの利用回数を、年1回、4000円程度削減を見込む。
- 環境等改善(?)便益
- 運動習慣確立:20,000円/年……自転車がない場合に運動習慣を付けるための「代替費用」としての、自転車旅企画前に考えていた「景色の良いところに行ってランニング作戦」の費用が不要となる。移動時間・費用(夏季限定、年間12回、移動往復2時間、ガソリン代200円程度を想定)を削減。
- 精神衛生改善:6,000円/年……精神的に良い影響が期待でき、ストレスによる間食癖を抑えられるほか、医薬品も減らせると見込む。明治ミルクチョコレート(26枚入り)を年間6箱、柴胡加竜骨牡蛎湯・半夏厚朴湯を年間各1箱減らせると仮定して計算。
合計で、年間95,000円の便益が発生。3年間では285,000円となり、B/C=285,000/250,000=1.14 という上々の結果となりました。しかも、これは「少なく見積もった値」です。
思い切っていいのを買えば、シティサイクルで出かける時にしばしばあった「漕ぐのが辛い」ということもないでしょうし、折りたたみだから輪行もラクチン。始めるにあたっての精神的なハードルも少ないです。
3年あれば、現金でお釣りが返ってくる。しかも、この人生を、このサイトを、もっと豊かにできる。
文句なし。令和3年度第一次補正予算案、脳内衆議院本会議、通過。
先ほど諺の話をしましたが、世の中には「思い立ったが吉日」という諺もあります。しっかり検討した上でOKなら、尻込みする理由なんてありません。
行ける。飛べる。もうこうなったら、最短で始めちゃいましょう。
プロローグ
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