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北海道新幹線迷開業事⑥ 他の新幹線と比較する愚(平成28年3月18日)

怒涛の二日連続更新。開業までに本シリーズを完結させるべく、現在暴走中でございます。

今回はこれまでとはちょっと違って、何かネタにする話題をひとつカチッと決めてお話するのではなく、解説記事っぽい色合いになります。

日本には、東海道、山陽、九州、東北、秋田、山形、上越、北陸と、あまたの新幹線が存在するワケです。そこにこの度、北海道新幹線というちょっと異色な存在が仲間入りするわけですね。どう異色かって、そりゃこんな暗い背景持って出てくる新幹線なんて初めてじゃないですか。

これらの新幹線は、それぞれ異なった路線背景を持っています。なので、比較するときは、ちょっと気を付けなければいけない。そういうお話を、今回はしようと思います。

当然、北海道新幹線を中心として議論していくワケですが、今申し上げたように北海道新幹線というのは実に異色な存在です。特に取り扱いが難しいです。なので、注意して読んでいってくださいね。

北陸新幹線と比較する愚

まずは、北海道新幹線と北陸新幹線を取り上げます。

北海道新幹線と北陸新幹線(長野~金沢)は1歳違いです。そのためか、よくこのふたつの新幹線が比較されることがたくさんあるように思います。

しかし、このふたつを比較するというのは、多くの場合間違いであるということを言わなければならない、とボクは思っています。

北陸新幹線について、よく目にするのが、最高速度のお話。特に、「東北新幹線は320km/h出しているのに、北陸新幹線が260km/hに抑えられているのはおかしい」なんて意見が結構あるように思います。

こんな風に、最高速度で見てしまうと、「北海道新幹線は速くて、北陸新幹線は遅い」みたいな印象になってしまいます。

しかし、問題なのは所要時間。東北・北海道新幹線は「4時間の壁」を(少なくとも現状)破れていない一方で、北陸新幹線は東京~金沢で最短2時間半。しかも北越急行経由の時代ですでに4時間の壁を破っています。

したがって、本質的には、北海道新幹線は遅く、北陸新幹線は速いということになります。

最高速度が60km/h速いとはいえ、所要時間が大きく異なるため、ふたつの新幹線は大きく質が異なってきます。北陸新幹線の時に成功した施策が、北海道新幹線に通用するとは限りません。

つまり、北海道新幹線を生かすために、北陸新幹線から学ぶという方法が成功するとは限りません。所要時間が長いという特殊事情に鑑み、独自の施策を用いた方がいい可能性すら指摘できます。

ここまで行われてきた北海道新幹線のプロモーションや、函館エリアの設備投資において、こういったことが意識されていたかというと、ボクはあまり意識されていなかったと感じています。速い北陸新幹線で放っておいても客が集まったからといって、H5系をかたどった帽子をかぶって電車ごっこをやったり、ハコモノをいくらか作った程度で、北海道新幹線のプロジェクトが成功すると約束できるわけではありませんもの。

山陽新幹線と比較する愚

同じように、東海道・山陽新幹線との比較においても、かなり気をつけないと本質を見失います。

行きますよ。ボクはこのコーナーで散々「4時間の壁」という言葉を使って北海道新幹線計画を批判してきました。でも、東京から博多まで5時間かかる山陽新幹線は儲かっている。これをどう考えるか。

これは、東海道・山陽新幹線と、東北・北海道新幹線の沿線の都市を見比べてみれば、どういうことかわかると思います。

東海道・山陽新幹線の沿線の市を人口が多い順に並べると、横浜(約370万)、大阪(約270万)、名古屋(約230万)、福岡(150万強)、神戸(同)、川崎(150万弱)、京都(同)となります。

一方東北・北海道新幹線だと、未開業区間を含めても、札幌(約190万)、さいたま(約120万)、仙台(約100万)、宇都宮(約50万)、郡山(約35万)、青森(約30万)となります。規模が全然違うのがわかるでしょうか。

何か。東海道・山陽の場合だと、東京のほかに途中の名古屋・京都・大阪・神戸発着の需要が無視できない、というか重要になるということです。

つまり、東京から4時間を超えていても、名古屋や大阪から4時間でたどり着けるところなら、新幹線はじゅうぶん強いということです。

一方、東北新幹線の場合、東京と札幌はともかく、途中区間の人口密度は高いとは言えません。大票田といえる仙台でも人口100万とあっては、途中駅発着の需要はあまり重要視できないとなります。

現に、山陽新幹線はあれほどの成功を収めているにもかかわらず、東京~博多を乗りとおす客はほとんどいないようです。これは、4時間以内で移動できる名古屋~博多、新大阪~博多、新神戸~博多などでじゅうぶんな旅客を確保しているということです。現に実際の同区間のシェアは新幹線が5割以上を確保しているようです。

このように分析すれば、山陽新幹線の繁盛と4時間の壁理論は矛盾なく説明できることがおわかりでしょう。つまり、4時間の壁は「東京と新大阪」の二か所が基準となるということです(名古屋はこの間にあるので悪いですが無視)。

したがって、山陽新幹線が末端まで需要があることを捉えて、北海道新幹線否定論を覆すことはできないんです。

また、山陽新幹線と同様に、途中駅の宇都宮や仙台から北海道に向かう需要を捉えて北海道新幹線に賛成するのも、ちょっとお門違いというお話になります。人口規模が違いすぎるからです。

新幹線を正しく理解しよう!

だいたい、今回の記事の趣旨がわかってきたんじゃないでしょうか。

今回は、とにもかくにも、「新幹線は所要時間が命」ということだけを覚えて帰ってくださればOKです。

最高速度が低くても、一部在来線でも、貨物列車に頭を押さえられても、所要時間が4時間を切っていれば、飛行機といい勝負ができ、輸送量のパイ自体も増やせます。3時間以内なら飛行機を圧倒でき、パイも大きく拡大します。あらー。

一方で、東京~博多や東京~函館を見ればわかる通り、新幹線は所要時間が4時間を超えた途端に一気にシェアを落とします。パイの拡大もできません。くっ。

新幹線、というか鉄道という乗り物は、実に両極端な交通機関です。強いところではとことん強いのに、弱いところでは実にショボショボとしてしまいます。

山手線や東急田園都市線なんかでは、他の交通機関ではありえないような数の客を毎日運んでいる一方で、札沼線の奥地では一日にたった1往復、列車は単行、風が吹いたら運休……。

「角を矯めて牛を殺す」という言葉があります。弱点を直すばかりでは、かえって長所を殺すことにもなりかねません。鉄道は、強いところで集中的に頑張ればいいと思うんです(だからといって赤字路線は全部廃止というのもまた極端すぎますが)。つまり、新幹線は需要があるところだけ作って、他は別の交通機関に任せる、という考えが主流になって然り、ということです。

今回、北海道新幹線が開業し、盛大に討死することでしょう。これによって、新幹線推進派は一歩後退することと思われます。新幹線誕生から50余年、そろそろ「新幹線」というものを徹底的に見直す時期が来たのだとボクは思うんです。

万能なものなどない

新幹線に限った話ではありません。万能なものなんて、この世にはないんです。こち亀BGMと草薙のダンスとスネ夫のパパの知り合いは万能な気もしますがさておき。

日本人は、すぐ万能なものを探して、それにすがって、楽をしようとする人が多いように思っています。そんなことでは、いつか悪い政治家に騙されますよ。あ、もう騙されてますか。

魔法の杖を探すのではなく、いろんな方法、いろんな道具を上手に使いわけて、上手に社会をつくっていけばいいんです。一見難しそうですが、本当は一番の近道なハズです。皆さん、目を覚ましましょう。

採算すら怪しいと思われる、いわく付きの新幹線、北海道新幹線。

当然と言いますか、その周辺には様々な迷要素が存在しています。

この連載では、北海道新幹線の開業を前に、それらのおかしな要素を取り上げ、狂いつつある北海道の交通をネタにしていきます にスポットライトを当てていきます。

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