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新・苗穂駅オープンから3年

JR札幌圏に新たな風を吹き込んだ、JR苗穂駅の移転開業。あれから、はや3年となりました。

当サイトは3年前、開業初日の様子を特集した記事を作りました。3周年を迎えた今、改めて苗穂駅を特集してみようと思います。

今回は、過去記事ではあまり触れられていなかった「駅の移転がどんな効果をもたらしたのか」という点を中心に見ていきます。

あれから3年、さらなる駅の進化

まずは導入を兼ねて、開業からの3年間でさらに進化した苗穂駅の姿を見ていきましょう。


平成30年(2018年)11月17日、札幌駅の東隣にある苗穂駅は、それまでの地上駅舎を廃し、西に300m移転した上で真新しい橋上駅として生まれ変わりました。移転前は無かった北口が整備され、東区方面のアクセスが飛躍的に改善しました。

新しい駅舎がある場所には、かつては徒歩・自転車専用の跨線橋がありましたが、老朽化していた上狭く不便でした。今回、新駅と同時に自転車対応の自由通路が開通。以前よりも広々とした、屋根付きで風や雪の心配もない快適な移動空間は、線路の南北分断を緩和する一打となりました。

これで終わりではありません。北口から延びる屋根付きの空中歩廊が造られ、令和3年(2021年)3月4日にオープンしました。

再開発(後ほど詳述)が進む北口周辺を南北に貫く200mの歩廊は、再開発の目玉である新築の分譲マンション「ザ・グランアルト札幌 苗穂ステーションタワー」と、同じく再開発の一環で移転してきた「北洋銀行 東苗穂支店」(同3月15日に移転開業)と直結。さらに道路を跨いで、商業施設「アリオ札幌」の前まで続きます。

本記事を制作している令和3年(2021年)11月の時点では、アリオに入るには一度階段を下りて外に出る必要があります。今後、アリオ2階とも直結する計画です。

※追記(令和5.8.15):令和5年(2023年)3月に、アリオまで通路が開通しました。

我汝会さっぽろ病院とも直結できたらもっと便利ですが、今のところその予定はないようです。


実際に歩いてみました。

内装はやや殺風景で、自由通路と違いあまり広くないので、ちょっと窮屈な感じ。まあ便利ならそれで良し。

現状ではアリオに直結していないのは残念ですが、歩廊入口からアリオ入口までは屋根のある場所をほんの少し歩くだけなので、負担感はそんなにありませんでした。

ただ、歩く距離自体はわりと長く、そこは負担感。「駅直結」とは言うものの、歩廊200m、さらにその先自由通路でJRの苗穂運転所・苗穂工場への引き上げ線を跨ぎます。時間には余裕を持たないと乗り遅れますね。(1敗)

ともあれ、冬でも憂いなく移動できるのは、雪国・札幌においては非常に大きいです。グランアルトも「駅まで外に出ないで行ける」というのが大きいセールスポイントになっているでしょう。アリオと直結すればさらに便利になりますし、今後駅付近の道路の交通量が増えれば、道路を跨げるメリットが際立ってくるはずです。今後の活躍に期待ですね。

駅の移転が与えた影響とは

さて本題。駅が移転し、北口ができたことで、利用者にとってどんな効果が起きたのかを考えていきます。

苗穂駅、朝ラッシュの実際

「駅が移転といっても、札幌駅まで乗る距離が短くなったんだから、かえって良くないんじゃないの?」と思うかもしれません。しかし、実際に苗穂駅の様子を見てみると、見方が変わってきます。


筆者は札幌圏のJRを日常的に使っており、苗穂駅も何度となく通っています。その乗車経験に基づいて、苗穂駅がどんな風に使われているかの印象を述べると――

まず、他の駅と比べて日中の利用は少な目で、朝夕のラッシュ時に利用が集中していると感じます。日中は運行間隔が開く時間帯もあり、都心に近い割に待たされるため利用価値があまり高くない一方、ラッシュ時間帯は停車列車が多いことが要因かと思います。

二つ目、こちらの方が重要。朝ラッシュ時間帯の札幌方面行き列車では、苗穂で「乗る」よりも「降りる」乗客の方が多いです。逆に、夕ラッシュの江別・千歳方面行きでは、「降りる」より「乗る」方が多いです。列車によりバラつきはありますが、自分が乗る時間帯は概ねこのような傾向です。

日常であまり鉄道を使わない方だとピンと来ないかもしれませんが、ラッシュアワーに都心に向かう乗客は、必ずしもターミナル駅まで乗るとは限りません。路線にもよりますが、一つ~三つくらい手前の駅で降りる人も結構いたりします。ターミナル駅まで行くよりも、手前で降りた方が会社や学校が近い、というのが理由かと推察されます。

札幌を挟んで逆側の桑園駅も様子が似ているほか、地下鉄でもバスセンター前駅、西11丁目駅、すすきの駅あたりが該当します。道外だと、仙台市地下鉄の北四番丁駅・宮城野通駅、京急の青物横丁駅、近鉄の河堀口駅、JR九州の吉塚駅、西鉄の薬院駅あたりが同様の傾向を持つと思われます。


自分が普段使わない時間帯と、逆方面の動向も見たかったので、とある平日の日に苗穂駅で人の流れを観察してみました。

※COVID-19(新型コロナウイルス感染症)感染予防対策として、顔との隙間が少ない高機能な不織布マスクの着用、および衛生的手洗いを徹底しています。取材の性質上「密」の回避が難しい局面でしたが、ワクチンを接種していること、および感染状況が落ち着いていることを踏まえ、リスクは一定程度避けられていると判断し決行しました。

7時~8時40分くらいの間、駅コンコースに陣取って観察。

札幌方面行き列車はやはり降車の方が多かったです。特に多かったのが7時台後半。ただし、苗穂7:51発の列車(岩見沢始発)だけは降りる人がやや少な目だったように見えました。

追記(令和4.1.25):別の日に苗穂7:51発の列車に乗りましたが、結構苗穂で降りてました。調査日だけたまたま何かの理由で降車客が少なかっただけという可能性あり。

8時台前半は、高校生の通学が一段落したためか、列車あたりの降車客はやや減りました。ただ、本数が一番多い時間帯でもあるので、合計すると7時台後半と同じくらいのボリュームがあると思います。(正確な数は把握していません。)

一方、逆の江別・千歳方面への列車の乗降は、ちょっと想定外。当初の予想では、札幌方面行きの逆で乗る人が多いのかなと思っていたのですが、実際見てみるとこちらも降りる人が多いことがわかりました。おそらく大半が札幌駅からの乗客。1駅だけの利用もかなりあるようです。

降車客の属性を見ると、スーツ姿の通勤客(7時半以降、とりわけ8時以降が多い)だけでなく、私服姿の人も多く見られました。制服姿の学生も目立ちます(特に7時台後半)。

学生の通学先は、最も多いのが白石区の札幌東高校、その次が中央区のクラーク記念国際高校札幌大通キャンパスと思われます。

駅を出てどちらの方向に向かうかも見てみました。学生はほとんどが南口(札幌東もクラークも南なので当然)ですが、それ以外は北口を利用する人もかなり多く見られました。

通勤利用者の目的地は、私服の人が一定程度見られること、北口利用が多いことを考えると、中央区のオフィスのほか、病院、倉庫業者、DNP札幌工場、アリオ札幌あたりが想定されます。(職場に着いてから作業着や制服に着替える人も多いと推察。)


この動向を踏まえた上で、苗穂駅の移転が利用者にもたらした影響を考えてみましょう。

通勤利便性大幅アップ! 300mの差が生む力とは

駅が西に移転し、北口が設けられたことが、駅利用者の多くを占める「苗穂駅付近に通う通勤者」にもたらしたものとは。

まず南口ですが、駅が西に動いたことで、中央区東部のビル・商業施設に近くなり、苗穂駅で降りて南口から職場に向かう通勤者の平均徒歩距離が短くなっていると思われます。

さらに、北口が新設されて駅勢圏が北に大きく広がり、東区(主に光星地区より南)への通勤も一気に楽になっています。

これまで苗穂駅から光星方面に行く場合、先述の狭く不便な跨線橋を渡って駅北側に回る必要があったのが、駅から直接北側に出られるようになり、駅自体も西に動いて近くなりました。既存利用者だけでなく、この3年で新たに得た利用者もそれなりにいることでしょう。

「駅勢圏の拡大」という点でもう一つ言うと、苗穂駅周辺から札幌駅方面に通う場合についても「苗穂駅からJR」という選択肢をとれる地域が増えているわけです。札幌駅までの乗車距離が短くなっても、それ以上に乗客の数が増えれば、かえって便益の総和は増していると考えるべきでしょう。


なお、苗穂駅の移転に伴って、令和元年(2019年)10月の運賃改定と同時に営業キロの変更があり、江別・千歳方面から苗穂までの運賃が(運賃改定による値上げ分以上に)高くなっている区間があります。

苗穂より東・南の方面、岩見沢・苫小牧までの区間で、移転による運賃への影響がある駅を調べてみました。

普通運賃では、「仮に駅が移転しなかった場合」より、森林公園・平和まで数十円、豊幌まで100円アップ。

通勤定期だと、この3駅に加えて恵庭、南千歳、植苗、苫小牧に影響が。1ヶ月定期の場合で数百円程度の差のところが大きいですが、平和は約1,300円、森林公園は約1,800円、豊幌だと3,000円近く変わってきます。

通学では、厚別、森林公園、江別、平和、千歳、南千歳、植苗、苫小牧と、影響は8駅に及びます。1ヶ月定期の場合で数百円~千円程度の差となります(江別は160円差)。このほか、豊幌は1ヶ月定期は同額ですが、3・6ヶ月定期が少し高くなります。

値上がり幅として気になる区間もありますが、全体的には影響を受けていても「利便性の対価」としてプラスに捉える人が多いんじゃないか、と想像します。

通学の利便性は

苗穂駅を通学で使っている学生から見て、新しい駅はどうでしょうか。

割合が一番多いとみられる札幌東高校へは、駅舎が西に行った分、距離が延びてしまいました。

一方、クラーク記念国際高校の札幌大通キャンパスへは、逆に同じ距離だけ近くなりました。

クラーク記念からは元々そんなに離れていませんが、札幌東は豊平川を挟んで向こう側で、元々結構離れている上にさらに離れてしまったので、東高生にとっては負担増です。

さらに前述の運賃上昇もあるので、特に短距離の割に大幅な値上げになった森林公園あたりから通う人は、「自転車や親の送迎などで新さっぽろ駅に出て、地下鉄を使う」などしてJRから逸走した層がいることも考えられます。(ただし、バス・地下鉄乗り継ぎの定期よりは、JRが依然安いです。)

もっとも、前述した通勤の利便性アップ・駅勢圏拡大の効果は非常に大きいので、それに比べると影響としては小さいといえます。

進む再開発、変わる駅前

ご存知の通り、今回の事業は単なる駅のリニューアルではなく、駅周辺の再開発を行い、一帯を地域拠点として生まれ変わらせるための大プロジェクトです。

3年の間に再開発もだいぶ進んできましたので、そちらの様子も特集します。

「拠点」への変貌

再開発の計画に則り、駅前にはさまざまな施設が建てられています。

まず南口周辺。マンションなどの工事が進行中で、令和3年(2021年)11月5日に南口周辺の愛称が「苗穂ヒラクス」に決まりました。

目玉として、高層の分譲マンション「プレミストタワーズ札幌苗穂」が建設中。南口のロータリーを挟むように2棟のマンションが並んで建ち、低層階には商業・医療施設が入る計画です。

その西側には、アクティブシニア向けマンション「イニシアグラン札幌苗穂」が建ちます。高齢者向け住宅と言っても、老人ホームや介護施設とは大きく異なり、あくまで「まだまだこれから」という方向けの住宅になるといいます。

これらのマンションは、北口と同様に駅と空中歩廊で接続される予定となっています。

プレミストタワーズは東棟(アクアゲート)が先行してオープンするようです。令和3年(2021年)11月27日現在で外観はすでにできており、今は内装や周囲の工事をしているものと思います。アクアゲートと駅を繋ぐ空中歩廊も工事が進んでいます。


北口も大きく変化。先ほど空中歩廊の説明をした際にも触れましたが、分譲マンション「ザ・グランアルト札幌 苗穂ステーションタワー」が建ったほか、北洋銀行の支店と我汝会さっぽろ病院が移転して来ました。

住宅だけでなく生活に役立つ施設が集まり、さらにはアリオもあります。胸を張って拠点と言える場所になったと言えるでしょう。


こうした「駅を中心としたまちづくり」には、大きな期待が持てます。

従来の「外へ外へ」という開発は、市街地を外に広げすぎ、交通計画の狂いや環境問題、市街地の空洞化やインフラの維持費の増加を招く「スプロール化」をもたらします。

逆に、公共交通を軸に据えてまちづくりを適切に計画すれば――

  • 中心部の賑わいの創出
  • 都市機能の集積による効率のよい都市運営
  • 公共交通の利用促進による渋滞緩和・環境改善など

――といった効用に期待できます。

また、周辺では他に再開発がいくつも実施されており、創成川周辺から苗穂駅付近に至る地域一帯にさらなる集積効果が生まれるでしょう。

一つが、北海道ガスの札幌工場の跡地を再開発する「北4東6」の事業。こちらも分譲マンション・アクティブシニア向け住宅が建設されるほか、老朽化した中央体育館が移転新築(オープン済。愛称は「北ガスアリーナ札幌46」)、さらに既存のサッポロファクトリーとの連絡にも使える空中歩廊を整備(オープン済)、という計画です。

創成川に近いエリアでは、さっぽろ創世スクエアの建設、創成トンネルの整備、そして新幹線札幌延伸と連動した「北5西1・2」地区の高層ビル計画と、いろいろな再開発が進みます。現在論議が行われている「都心アクセス道路」との連動も見込まれます(なお筆者はこの道路計画に真っ向から反対です)。

これらの計画が、それぞれ独立して作用するのではなく、距離の近い他の再開発地域や既存市街地と相互作用することが期待できる、というわけです。

道路交通にも変化が

苗穂駅周辺の再開発では、鉄道だけでなく、道路にも手が入っています。

アリオ南側を東西に走る道路。苗穂駅・アリオ周辺は拡幅工事完了。

北口ロータリーはもちろん完成済ですが、北口への経路となる、アリオの南側を東西に走る道(苗穂駅連絡通)を拡幅する工事も行われています。アリオ付近から北8条通交点までは終わっており、そこから西側へも工事が進んでいます。

それが完了した後、東8丁目篠路通のアンダーパスの上を通ってさらに西に延伸させ、サッポロファクトリー付近に通じるアンダーパスと接続するという計画になっているようです。

現状では、苗穂駅北口から車で札幌駅南口・大通方面に向かう最短ルートは、苗穂駅の西にある「開かずの踏切」を通るルート。踏切で長く待たされることが多いうえ、安全面の不安もあり、具合が悪いです。

踏切を通らないルートを採る場合、北の方にぐるっと迂回することになります。やはり時間がかかってしまい、面倒です。

ですが、アクセス道路が整備されれば、「開かずの踏切」を通る必要も、迂回する必要もなくなり、線路の南側に一気に短絡できます。

また、「開かずの踏切」はこのアクセス道路に取って代わられる形で廃止となります(令和5年3月予定)。これにより安全性が向上するほか、付近の道路混雑も解消するでしょう。

再開発によって、苗穂北口は鉄道だけでなく車でも安心・便利に移動できる地域となり、魅力がさらに高まるでしょう。

※この部分は説明不足があったため、令和4年12月21日に改稿しています。


ただし、こうした道路の整備によって、せっかく新築した駅の利用者を奪ってしまい、より自動車に依存したまちづくりになってしまわないか、という点は心配です。

持続可能な社会を築くためには、便利なだけでなく環境への配慮も大事です。最近(本記事初版執筆時点)まさにCOP26が開催され、その中でも議論されたように、環境問題は今や喫緊の課題です。自動車に過度に依存した社会を改めることは、夢のある未来のためには必要不可欠です。

もちろん「道路を一切造るな」などとナンセンスな主張をするつもりはありませんが、道路を造る「だけ」ではなく、自動車交通を適切にコントロールするために、後述するような交通政策の見直しも考えていく必要があると思います。

時流をしっかり掴んだ采配

未来を見据えるという点でもう一つお話しすると、今回の再開発が「高齢社会」を見越したまちづくりになっている点が要チェックだと思います。

先述の通り、我汝会病院ができ、アクティブシニア向けマンションが計画されています。また近辺にはもともと厚生病院もあります。いわゆる「元気な高齢者」が過ごしやすい地域になってきているといえます。

また、駅に近いのでJRにアクセスしやすく、都心にも近いので、公共交通を利用する人の割合を高めることができるでしょう。そうすると、車ではなく(駅まで・駅から)歩いて移動する人が増え、市街地がそれだけ賑わうことでしょう。歩くことは心身の健康増進にも繋がり、ひいては医療費の削減にもなるはずです。

これからの時代は、高齢者の割合がさらに上がり、企業定年も延びていきます。それを考えると、高齢者が暮らしやすく、さらに高齢社会の課題である医療費問題の打開にもなる今回の再開発は、時勢に合っていて合理的だと思います。


昨今は「都心回帰」の時代と言われます。たとえばバブルの頃とは異なり、都心に近い地域でも地価が下がり、かつてのように郊外の人口が増えていかず、むしろ都心に人が集まる時代となってきました。

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響もあり、リモートワーク前提であえて大都市から離れた地域に住むという、都心回帰と逆の流れもあると聞きますが、全体の趨勢としては引き続き都心での集中が続いていると言えましょう。

今回の再開発は、まさにこのトレンドを掴んだものです。都心に近いわりに、倉庫や低層住宅などが並び土地の高度利用がされていなかった地域に、新たな命を吹き込み、都心近くに住みたいニーズに応えたわけですね。

高齢社会への対応だけでなく、こうした都心回帰の流れへの適応という意味でも、時流に乗った采配というわけです。

今後の展望と、思うこと

最後に、移設や再開発によって変わりゆく苗穂駅エリアについて、今後のことや、それについて思うことをいろいろ書き連ねていきます。

まあ、素人の戯言と言われたら「はい、その通りです」としか返せないレベルのことしか書けませんが、そんなんでよければ目を通してみてください。

再開発効果発現のため列車ダイヤの改善を

駅の移設や再開発により、さまざまな効果が期待されることは、ここまで説明してきた通りです。

しかし、それには暗黙の前提条件があります。あえてここまで触れてきませんでしたが、これまで説明・考察してきた駅移転・再開発の効果は、「列車が使いやすい」ことが前提となります。

さりながら、今のJR札幌圏のダイヤは、駅の利便性を高めるどころか、駅の移設や再開発に「水を差す」ようなものであると言わざるを得ません。

朝ラッシュ時間帯こそ、令和2年3月に快速エアポート61号の新設による千歳線の混雑緩和、苫小牧からの列車本数増加があり、改善されていますが、日中は……

  • 江別方面:区間快速の各停化で停車本数こそ増えましたが、下り列車の厚別駅での特急待避が激増し、所要時間がかかりすぎ。
  • 千歳方面:COVID-19による利用減も相まって大減便。最大50分ほど間隔が空き、白石・北広島などでの列車待避が長い列車も増加。
  • 小樽方面:快速列車の大減便により時間距離が大幅に延びました。

……といった具合に、一見すると函館本線の普通列車が増えて便利になっているようで、その実相当な不便を押し付けられていると言えます。隣の札幌駅との移動でも、最大19分待ちがあります。

また夕方の時間帯も、18:42発の千歳行きが無くなったので千歳方面への移動が少し不便になり、札幌→苗穂間で見ても18:36発(岩見沢行き)と18:50発(江別行き)の間が14分空くなど、(エアポート増発とトレードオフなので仕方ないにせよ)具合の悪いことになっている箇所があります。

このような「エアポートさえ増発できれば後はなんでもいい」と言わんばかりのダイヤは、苗穂駅周辺の魅力アップの大きな足枷となってくるはずです(無論他の駅周辺にとってもですが)。COVID-19の長いトンネルの出口が見えてからでいいので、もう少し利用者目線のダイヤとすべきです。

もちろん、JRにとって利益にならないような改善には期待できません。だからこそ、行政が、鉄道を都市の重要インフラとしっかり位置付け、リーダーシップを発揮するべきです。


ここで一つ、あえて変な案を出してみます。「特急列車を苗穂に停める」。

……いやもちろん大マジメに提案してるわけではないですが、でも「ちょっと考えてみる」くらいはいいでしょう。

苗穂駅は江別・千歳方面とを行き来する乗客が多いと先ほど述べました。したがって、岩見沢や苫小牧からの乗客需要が、多少は期待できるということになります。

苗穂駅は6両編成まで停まれます。増結の可能性がある北斗やおおぞらなどの気動車は難しいでしょうが、ライラック・カムイ・すずらんは停めようと思えば停められます。

もっとも、苗穂駅は日中の利用はそこまで多くないので、日中は苗穂をさっさと通過して都市間を速く結ぶことの方が利益になりましょう。またライラック・カムイは営業施策上、なるべく「札幌~旭川 所要1時間25分」を維持した方が良いように思います。

逆に、ラッシュ時間帯なら特急の利用価値はありそうです。朝の混雑した普通列車の車内から苗穂で降りるのは億劫ですし、夕方は苗穂から江別・千歳方面行きに乗ってもまず座れません。特急なら、「まず間違いなく座れ、乗り降りでも人を掻き分ける必要がない」という付加価値が付くので、案外支持される……かも?

具体的には、朝のライラック4号(所要時間が他のライラック・カムイより長い)、カムイ6・8号(同)、すずらん1・3号、夕方~夜間のすずらん10・12号、このあたりを停めることが考えられます。

まあ実現することはまずないと思いますが、たまにこういう発想の転換をしてみるのもアリだと思います。あえて既成のものを壊してみることで、何かが掴めることもありますのでね。

路面電車・新交通導入なら交通政策全体の見直しを

(写真:札幌市交通資料館にて撮影(平成25年) イラスト素材出典:いらすとや 様)

苗穂駅周辺地域に路面電車(推進派はなぜか"LRT"と呼称)を整備することを主張する団体があるようです。また、最近の報道では水素エネルギーのバスという形での新交通システムについて市が検討に入ったとの情報もあります(裏を取っていない情報ですが)。

断言しましょう。100%失敗します

……もちろん、それは「ただ単に新たな交通手段を導入して終わり」という場合の仮定です。

路面電車やバスのような、道路を走る交通手段は、当たり前ですが自動車の流れの影響を受けます。自動車が多い道だと、どうしてもスピードが落ちてしまうわけですね。

したがって、車の流れが遅いままなら、多くの人は「路面電車やバスは遅い。やっぱり、目的地に直行できて速い自動車を使おう」と思うはずです。

また、乗車料金が高いと人々を自動車から引き摺り出すのは難しくなるでしょう。

例えば、現状の札幌市電の乗車料金は200円で、スピードもあまり無い(特に西4丁目をまたぐ場合)ので、市中心部の短距離移動に使うには割高感があります。都心にほど近い苗穂駅周辺で、これと同等の乗車料金を設定したところで、使ってくれる層は限られるでしょう。

都心のごく一部の区間で実施の「100円バス」も、料金こそ安いもののスピードがまるで無く、(少なくとも筆者が見ていた範囲では)全くと言っていいほど利用されておらず、結局令和2年(2020年)に大部分でサービスが廃止されています。

つまり、苗穂地区に軌道系交通や新交通を本気で造るつもりなら、公共交通が果たすべき役割を踏まえたうえで、公共交通の「スピード」と「価格」を調整するために、交通政策そのものを全体的に見直すことが不可欠といえます。そうしないと、決して安くない導入費用に見合う効果は出ないでしょう。

政策としては、例えば次のようなものが考えられます。(市単独でできないものを含みます。)

  • ピグー税:自動車交通に新たに税を課す方法。自動車の外部不経済である「環境問題」(温室効果ガスなど)への対応策として、自動車の交通量を抑え、また公共交通に需要を誘導するための政策、という位置付けとなります。近年取り沙汰される「炭素税」が典型。
  • 交通規制:自動車の行動を制限する方法。市中心部の自動車の速度制限を厳しくする(例えば全線30km/h制限)、右左折を制限する、市中心部の公営駐車場(札幌大通地下駐車場など)を閉鎖するといった手段が考えられます。
  • 料金面の優遇:公共交通の乗車料金を安く設定する方法。公共交通による市街地の活性化・環境改善といった便益を見込んで、あえて見た目の収支を悪くしてでも乗客を増やす発想です。

逆に、思い切ってこうした政策に踏み込んで、大きな変化を起こすことができれば、状況は全然違うでしょう。自動車を減らせば公共交通のスピードが上がり価値が高まりますし、(相対的に)安くなれば気軽に乗れます。

活き活きとした、かつ持続可能なまちへと苗穂駅周辺が変わっていくための大きな役割を、新しい交通機関が果たしてくれるかもしれません。

※追記(令和4.9.22):令和4年(2022年)9月22日、札幌市長が定例記者会見にて、「路面電車の延伸は難しい」と発言したほか、「レールや架線のない仕組み」「水素や電気を活用したもの」を検討する考えを示しました。今後は路面電車を議論の俎上から外し、燃料電池バスを軸に検討するものと思われます。水素エネルギーには大きな可能性があると思いますので、今後の動きに期待します。

※追記(令和5.4.10):令和5年(2023年)4月9日の札幌市長選挙で、路面電車の延伸を公約に掲げる候補が敗戦、現職市長が再選となりました。軌道系交通機関の新設・延伸に慎重な市政が続くことになり、鉄道・軌道の価値を高く評価している筆者の立場からは少々残念なところです。現職市長も地下鉄東豊線の延伸には言及しているので、燃料電池バスと合わせて動向を見守っていこうと思います。


こうした交通政策の見直しは、軌道系交通や新交通の導入如何にかかわらず、真剣に考えていかなければならないのではないか、と筆者は考えています。

先述した通り、苗穂駅周辺を「公共交通が軸の活気あるまち」にするため、また(苗穂駅周辺に限らない話として)環境などの都市の課題にチャレンジしていくため、自動車に偏った交通システムにメスを入れる発想が必要になってくると思います。

たしかに、自動車は便利です。自動車という発明がなかったら、我々はここまで豊かさを享受することはなかったでしょう。

また、1人あたりの自家用車の保有台数が多い北海道という環境では、自動車を念頭に置いた交通政策はある意味自然と言えます。

ですが、「自動車が多い」「じゃあ自動車をもっと便利にしよう」というような単純な発想で、まち・社会が置かれた現状に目を遣らず、ひたすら需要に追従するばかりというのは、本当に「まちづくり」と言えるものでしょうか?

嫌になるほど山積みになっている社会の諸課題、それをきちんと見据えて、一つ一つ解決するためにまちが目指す方向を指し示すのが、交通、そして行政の果たすべき役目なのではないでしょうか?

むろん、いきなりガラリと変えるのは無理ですし、今筆者が述べたような考え方が本当に正しいのか、議論の余地もたっぷりあるはずです。ですが、まずは「自動車中心」というある種の"ドグマ"を解き放って、少し引いた視点から交通全体を一度見渡してみるべきです。

創成川イーストの将来像は

苗穂駅周辺はじめ中央区東部・東区南部でさまざまな再開発が進み、さらに札幌駅新幹線ホームが東側にできることで、札幌の都心の重点は少し東に移ることになるでしょう。

現状の都心は西4丁目が南北軸で、その真下には地下鉄南北線が走りますが、さっぽろ~大通間で麻生方の車両の混雑が激しく、抜本的な解決が難しいことから、これ以上西4丁目界隈に人が集中すると問題になりかねません。一方、東豊線は余裕があります。

また、札幌駅の新幹線ホームを現駅に設けることの困難さは周知の通りです。

こうした交通の問題と、都心東側の低活用地帯を活かせることを考えると、あえて「今一番発展しているところを外す」戦略というのは一つありだと思います。

問題は、創成川から東の地域を、しっかりと「都心の一角」に育て上げられるかどうかです。

某区の区役所移転の時は、人の流れや利便性を一切考えずにただハコモノを造り、あまつさえ区役所が入る建物がどこにあるのかわからないような工夫をわざわざ凝らす(建物側面に「何の建物なのか」書かず、批判されて文字が入ったと思ったら意味不明の文字列でますます何の建物かわからない)有様。それと同じようなことをしていたら、巨額の投資が水の泡です。

きちんと市民のニーズや都市の課題を踏まえ、交通とも連動させてまちづくりを進めていかねばなりません。

ですが、自由通路のエレベーターの表示を見ると不安しかありません。「上階」「下階」とすればいい(というか点字はちゃんと「うえ」「した」になってる)ものを、「北(南)口広場」「自由通路」と、どちらが上なのかわかりづらい表示をわざわざ採用しています。まずいと思ったのか下にテプラで「1階」「3階」と付け足してありますが、事前に気付けない時点でもうね……。

単なる雑然としたビル街・住宅街となるか、持続可能で魅力と活気のあるまちになるか。それは、まだわかりません。

駅が移転し、新たな価値が生み出されました。駅を中心とした再開発も進み、付近は大きく雰囲気を変えつつあります。

数年後、十数年後に、札幌中心部はかつての姿が想像できないくらいに変わることになるでしょう。

過去にばかり拘るのではなく、ただ現状を追認するだけでもなく、だからといって実現不能なユートピアを思い描くのでもなく。

未来志向で、かつ地に足付けて。本気で将来を考える一人の市民として、変化していく駅と地域を、今後もウォッチしていきたいと思います。

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