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どうなる? 北の特急列車網⑤ 崩壊へのカウントダウンは始まっている(平成28年12月15日)

世に平穏のあらんことを。ゲニウス(北)です。

ようやくスーパーおおぞら・スーパーとかちの復旧が決まりましたね。ホッと胸をなでおろした方も多いのではないでしょうか。

復旧後も苦境が続くであろう北の特急軍団が、今後どうなってしまうのか。今回はシリーズ最終回として、「最悪の想定の未来予想図」を提示したうえで、今後我々が何を考え、どう行動していったらいいのか、についてお話ししたいと思います。

念のためもう一回現状の確認

第1回からずいぶん間が空いてしまったので、もう一回現状確認をしてみましょう。これがこの先の話の前提となります。

JR北海道は現在、存亡の危機に瀕している、と言われています。決して「赤字体質」ではないらしいですが、おそらくは資金難の状態にあります。車両や線路を整備する費用や、災害復旧費用など、大きな出費が重なってしまった場合、資金がショートしてしまう可能性があります(たぶん)

当座の資金を確保したとしても、10~20年単位で将来を見渡したとき、今のうちにコストダウンのために手を打っておかないと、JR北海道が「第二のたくぎん」となってしまうおそれがあります。車両製造費は「減価償却」という形で毎年大きな支出要因となります。車両の償却費用と列車・路線の赤字が積み重ねれば、やがては取り返しのつかないことになるでしょう。

もちろん、必要なインフラを残すためには、ある程度の赤字を許してでも、一定の路線網・列車網を残す必要がありますが、鉄道がその力をほとんど発揮できないような閑散路線については、コストダウンのためにあらゆる方法を考える必要があり、それでもダメならサービス縮小・路線廃止もやむを得ません。


「鉄道がその力をほとんど発揮できないような閑散路線」とは、ほぼそのまんまJR北海道が沿線自治体に協議を持ちかけたぶんの路線を指します。鉄道は大量輸送を得意とする交通機関ですから、輸送密度が2000人/キロ/日を割ってしまうと力が出しづらくなります。

利用の少ない路線を、あくまで「必要なインフラ」と位置付けて存続させるためには、当然ながら運賃・料金の収入だけでは全く足りません。札幌圏でさえ赤字なんですから、会社単体(もしくはJR北海道グループ単体)での内部補助で成り立たせることはできません。

となると、行政機関による何らかの補助が、閑散路線の存続には不可欠となります。

資金に余裕のある行政機関なんてどこにもありませんから、国・道・市町村・JRが資金を出し合って第三セクター、もしくはそれに準ずる仕組みをつくって、土地・線路などを所有する形がとられるものと思われます。

そうした仕組みがつくれなかった場合、残念ですがその路線にはサービス低下あるいは廃止が待っています。

車両寿命から推測する「Xデー」の到来

JR北海道にとって大きなコスト要因のひとつが、車両の製造費です。性能が良く、耐寒耐雪に優れているなどの要因からか、1両あたりの費用は他社の車両よりもかなり高いようで、これを少しでも削ることが、回転資金確保と赤字縮減の両面から大事になってきます。

ということは、今回に限らず、JR北海道が使用している特急車両の寿命が来るたびに、特急列車の再編が取り沙汰されることとなります。

今回のキハ183系基本番台の廃車後も、N・NN183系、キハ281系、キハ283系、キハ261系基本番台……と、現時点で車齢15年以上の車両が大量に存在します。

特急気動車の寿命は32年程度と想定、さらに軽量車体で酷使されているキハ281・283系はもっと早く寿命が来ると考えられます。

まず、基本番台を除いたキハ183系が車齢32年を迎えるのが、2018~2022年。キハ281系が2023~2025年、キハ283系が2028~2032年となります。


では、これらの車両寿命を頭に入れて、今後の予想を「最悪の想定」、すなわち行政による出資が得られなかった場合の想定でやってみます。

まず来年度に、キハ261系1000番台が追加で北斗系統に投入され、N・NN183系の一部がオホーツク系統に転属するとボクは読んでいます。NN183系中心の編成で運用される「北斗」3往復を先にキハ261系を入れてNN183系を「オホーツク」に転用、その後N183系の寿命に際して残る「北斗」1往復をキハ261系に取り替え、といったところでしょうか。

ここで、N183系が全車廃車となってしまった場合、NN183系のエンジン更新車22両だけではオホーツクの1日3運用(第2回参照)をこなすほぼギリギリの数しか車両が残りません。とくにエンジン更新があったグリーン車はたった3両で、予備車がありません。

つまり、向こう数年でオホーツクが再び減便の危機にさらされる可能性がある、ということです。また、「キハ261系基本番台の転属」という形で手を打つことが検討される可能性も否定できず、オホーツクの車両更新問題が宗谷系統に飛び火することもあり得ます。

次なるピンチは、NN183系が寿命に達するころ。その頃になるとキハ281・283系も限界ギリギリの状態になっていると思うので、一気に大量の車両を置き換える必要が生じます。

その頃には、道東自動車道の千歳恵庭~釧路間が全通し、札幌~帯広~釧路間における公共交通のパイは今よりも減少しているでしょう。そうなると、いよいよおおぞら・とかち系統にもメスが入るかもしれません。

北斗系統だけで5往復ぶんの車両置き換えが必要で、さらにおおぞら・オホーツク系統も車両置き換えが必要になりますから、新車の数を減らすため、「スーパーおおぞら」減便および編成短縮、「オホーツク」の減便もしくは廃止が考えられ、さらに「スーパーとかち」大減便・編成短縮によるキハ261系1000番台の捻出なんかも容易に想像できます。さらに、まだ「スーパー宗谷」が生きていたとしたら、「オホーツク」の更新にキハ261系基本番台を回して「スーパー宗谷」廃止、というのも十分ありえます。


こうなると、北斗・カムイ・すずらん系統を除くすべての特急系統で輸送力が下がることとなり、高速道路の延伸・沿線人口の低下と相まってシェアはどんどん落ち、公共交通のパイ自体も小さくなるでしょう。

また、特急自体が廃止される路線が出現する可能性も高く、そうなると大幅な輸送力の落ち込みによって廃線が一気に現実味を帯びるでしょう。おそらくは、特急廃止から1年とたたずに廃止論議が発生し、5年以内に廃止が行われるでしょう。


つまり、北の特急列車網の「Xデー」は2022年プラスマイナス3年程度で到来し、それによって特急が廃止された路線が発生した場合には、その路線の「Xデー」は5年以内に来る、ということです。

念には念を、ということでちょいと言い換えると、特急再編の猶予時間は長く見積もっても9年切ってます

この9年間を無為無策で過ごした場合、特急が機能する区間は、札幌~函館間、札幌~旭川間のみとなり、現在は輸送密度4,000人規模の札幌~帯広間ですら縮減が考えられるどころか、帯広~釧路間では大幅縮小、網走・稚内方面は路線自体の廃止も覚悟しなければならない、ということです。現在特急が走らない区間については、もはや言わずもがなです。

現実を受け止め、議論に備えよう

「困ったらお上がなんとかしてくれる」とか、「どうせ今回もから騒ぎ」とか考えている方がいるとすれば、今回こそそうした思考を改めていただきたい。

何もしなくても、誰かがお金を出してくれて、今までと同じように路線や列車や駅を維持できる、という時代は終わりました。というか、そもそも高度成長が終わった時点で、そんなのはとうに幻想になっていたはずなんです。気付いていないだけで。

JR北海道がここまで追い込まれてしまった以上、そして今後二度と我が国の景気が上向くことがないと考えられる以上、幻想は捨てなければなりません

そして、ただ駄々をこねるだけでは、JRは耳を貸してくれないでしょう。それは(もう何年前だったか忘れましたが)留萌本線の一部がなくなった時に、沿線の意見が何も通らなかったことからも明らかです。

JRと「議論」をするためには、鉄道のインフラとしての性質など、基本的な知識をしっかりと身に付ける必要があります。でないと、議論がかみ合わないどころか、下手すると門前払いを食らいます。

少なくとも、「鉄道は大量輸送機関であり、その逆には向かない」というような超基本はしっかり押さえなければなりません。「政治のリクツ」は通りません。

やるべきは「ストレス解消」ではない

しかし、昨今の情勢を見るに、「ホントにわかってんのかなあ」としか思えません。

聞こえてくるのは、JR北海道への過去志向の批判ばかり。しかも、たいていが屁理屈か、揚げ足取りです。

やれ「安易なサービス削減」だの「新幹線への依存体質」だの、鉄道の本質を踏まえていないうえに、批判にも前向きな意味が見出せません(「批判」ですらない単なる攻撃?)。北海道開拓期に大発生して作物をことごとく食い荒らしたイナゴのごとく、単にたかっては弱きをくじくだけで、浅ましさを感じます。

石勝線・根室本線の災害不通に際しては、公式サイトの「道東方面へのご旅行は再検討を……」という旨の一文に言いがかりを付ける者も。曰く、「もうオホーツクは復旧しているのに何たることぞ」と。JR北海道は石北本線を「道北エリア」に分類しているという点は措くとしても、「道東方面の交通網」に大きなダメージが入ったのは疑いようもない事実で、この一文だけをもって「風評被害」と騒ぐのはどう考えても揚げ足取り以外の何物でもありません。

一方、「今後はどうしたらよいか」という件に関する建設的な意見を出している方はほとんど見られません。「JR北海道再生のための提言書」を除けば、ボクが知る限り佐藤信之氏くらい。

国も、道も、市町村も、そして草の根も、議論を始めようとしていない。ボクにはそう映ります。実際、夏の時点でどの範囲の路線が議論の対象になるのか大体見えていたのに、その時点で問題提起がJR側からしかされていない時点で、「異常事態」と言ってもよいと思います。

他人に当たり散らしてストレスを解消するよりほかに、やるべきことがあるのではありませんか。ストレスなら無限プチプチでも買ってつぶせばいいのです。もはや無駄に使える時間などありません。あと9年だってんですよ。

どこかで、「まともな国の人は問題があったら解決策を考えるが、日本人はすぐ犯人探しをはじめる」とかなんとかいう話を聞いたことがあるような気がします。でも、今回ばかりはいつものスタイルを捨てて、未来を見てみませんか。

「甘ったれ」でも「犯人探し」でも「反動形成」でもなく

大事なことは何度でも繰り返します。議論をしましょう。

スーパーヒーローは来ません。あなたが考え、あなたが行動(例……住民なら乗車、自治体なら議論開始や出捐)しないと、スタート地点にすら立てずにおしまいです。

いつまでもイナゴではいられません。ソクラテスになれなんて言いませんが(ボクだって調子乗ってるだけのバカですしおすし)、せめて「人間」になりましょう。

そしてもう一つ、「反動形成」でもいけません。

断片的な情報だけで、「もう北海道の赤字路線は全部廃止でいいんじゃね」とか言ってる人をあちこちで見かけます。

補助なしで赤字の路線を本当に全部廃止したら、北海道には札幌市営地下鉄南北線しか残りません。札幌とその近郊に住み、同東西・東豊線、JR函館本線・千歳線・学園都市線を使う人の通勤通学の足はどうするのですか。都市間輸送がバスしかなくなって、公共交通のパイが削られることで経済・環境などの面で大きな不効用が発生しますがいいのですか。

そもそも鉄道はインフラですから、利益だけを目的にするものではありません。大事なのは「どれが必要でどれが不要なのか」であって、「黒字か赤字か」ではありません。その議論を提起せず、反動で極論をすることは、単なる思考停止にすぎません。

また、これは専ら自治体の話ですが、路線や列車の廃止が急速に行われたことで、「もうこれ以上はガマンならん」というような態度になっている人も多いです。

今ある程度ナタを振るわないと、もっとひどい結末が待っています。それは、より残酷で、より急速な変化です。すなわち、札幌エリアを含む全路線での運行不能。

今までなあなあにしてきたぶん、今こそ動かなければならないのです。厳しい現実を受け止めて、ある程度の出血は覚悟する必要があります。「もうJRの話なんか聞かない」と殻にこもって思考を止めてしまうと、その先には路線の廃止しか待っていませんよ。

短絡的、もしくは反射的な意見・対立をしているだけでは、事態は動きません。あくまで、前向きに、建設的に、守るものと削るものを分けていく必要があるのです。

全体のまとめ

以上で今回の連載は終了とさせていただきます。

最後に全体のまとめ……まとめって言ったって、将来の予想+α程度のことしか書いていませんから、まとめるほどのものもありませんなあ。

まあとりあえず全5回を振り返ると、第1回は話題提起、第2・3回で来年の予想(最近の新情報を見るにつけて、予想が外れる気しかしない……)、第4・5回で予想される将来の特急網縮減についての問題提起プラス意見、という感じです。

今回の第4・5回と前回の連載に共通してボクが最もいいたいことは、いずれも先述の「議論をしましょう」という一言に凝縮されます。

ただ批判(攻撃)するだけでも、手放しでバンザイするだけでも、反動で意見するだけでもダメで、「主役」である我々一人ひとりがちゃんと前を向いて、理性的に物事を考えないと、未来は切り開けない、ということです。

議論をするときも、ちゃんと「鉄道とは何か」とか「どんなまちを造りたいか」とか、JR北海道が議論しようとしていることを議論するために必要なファンダメンタルな要素をしっかり押さえたうえで、会話のキャッチボールをしなければなりません。JRが「サッカーをしよう」と言っているのに、我々がヘルメット被ってバット持ってピッチに立ったら、その時点で退場させられるでしょう。

「新幹線駅と空港を結べば万事OK」とか「もう全部廃止だ」とか、素人考え(ド素人のボクに「素人」と言われたらおしまいです)でもいけません。正しく議論を起こして、筋道に沿った議論をしなければなりません。

ボクだってただのバカタレです。青二才です。ボクはあくまで議論のきっかけを提示しているだけで、ボク一人じゃ結論を出して実行するなんてできません。だからこそ、みんなで議論して、ボク一人では絶対思いつかないような方法を出したいんです。

そういう意味で、これらの連載は「議論」そのものではなく、「講習会(セミナー)」といってもいいかもしれません。

確かに、現実は直視するのも嫌なくらい暗いです。でも、問題点をひとつひとつ吟味して、一歩一歩進んでいかなければ、より良い社会は作れません。鉄道に限った話ではございません。今日、みんなで新しい一歩を踏み出しましょう。

今回の連載は以上です……が、本コーナーで書きたい話の一つに、文字に起こすとべらぼうな長さになってしまうものがありまして、それを「連載」という体で分割して出すことを考えているので、連載企画はまだまだ続くと思います。

前回の連載の最後で、「連載なんてもうやんねぇ」と言って、舌の根も乾かぬうちにコレです。

……もしかして、この国一番の大悪人ってボクだったりするんでしょうか。

参考文献……

  • JR北海道 プレスリリース 平成28年11月4日発表「平成27年度 線区別の収支状況について」(http://www.jrhokkaido.co.jp/press/2016/161104-1.pdf
  • JR北海道 プレスリリース 平成28年7月29日発表「『持続可能な交通体系のあり方』について」(http://www.jrhokkaido.co.jp/press/2016/160729-2.pdf
  • JR北海道 プレスリリース 平成28年4月13日発表「特急車両の老朽・劣化の状況について」(http://www.jrhokkaido.co.jp/press/2016/160413-1.pdf
  • 札幌市 市営交通 平成26年度決算の概要(http://www.city.sapporo.jp/st/zaimu/kessan/kessan-kousoku.html

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