キハ261系5000番台「はまなす編成」一般公開ルポ
記事公開:令和2年(2020年)10月3日
JR北海道が令和2年度(2020年度)に投入する「多目的特急車両」キハ261系5000番台のうち、「はまなす編成」がこのほど落成。デビューに先立ち、令和2年9月26日に小樽駅で一般公開が行われました。
キハ261系5000番台は、多客期の臨時列車、団体列車、定期列車の代走などをマルチにこなす、北の特急網の「シックスマン」。同様の役割を担っているノースレインボーエクスプレスや、令和元年(2019年)に引退したクリスタルエクスプレスの後継車両です。(車両の意義については別記事で詳説していますので、ぜひご覧ください。)
運良く、一般公開当日の予定を空けることができ、車内を見学することができました。その時の感想を書き記していきます。
もっとも、事前にJR北海道から出ているニュースリリースで、だいたい全容がわかっています。新情報と呼べるものは、ぶっちゃけありません。
なので、「実際に見て、体感しての印象」と、「JRのニュースリリースであまり触れられていない点」を中心に書いていきます。ニュースリリースに書いてあることはさらっと流すので、リリースも合わせて見てみてください。
車内インプレッション ~フリースペース&多目的室 編~
それでは、まず1号車から。
1号車は飲食・物販・イベントに使える「フリースペース」になっています。
通路を挟んで、片方が4人掛けのボックス席、もう片方が窓側に向いたカウンター席となっています。
先述の「別記事」で解説した通り、グリーン車をベースにした構造になっているのを逆手にとって、ボックス席のテーブルを広くとっています。また、片方をカウンター席にすることでボックス席の幅を広くとっています。このため、飲食店のボックス席と同じくらいの広さが確保できています。
飲食に使うことを想定した空間ということで、これは非常にいいと思います。せっかくおいしい料理が出てきても、せせこましく食べると楽しみも減ってしまいますからね。
こういう「空間の広さ」の面は写真ではつかめないので、ここは発見でした。
カウンター席を設けたのもいいアイデアだなあと。最初の予想では2人掛けのボックス席になると思っていましたが、それだと1人旅の場合いろいろアレですし、ボックス席が埋まっている時なんかに3人以上のグループで使う場合グループが分断されちゃいますので。
座席もクッションがしっかりしています。レストランで食事をする程度の時間なら、何の問題もなく過ごせるでしょう。
デザインも上々。ブラウン基調でモダンな雰囲気に仕上がっていて、落ち着いて過ごせる空間です。
ホント、「レストランとか喫茶みたいだなあ」という感じ。もちろん飲食以外にも使えますし、単に自由席として開放しても問題ない空間です。列車の性格に合わせて自由自在に使いこなせる空間として、バッチリ役目を果たしてくれるでしょう。
フリースペースの外には、多目的室を兼ねた個室があります。
ベース車にも同じ位置に多目的室があります。体調が悪くなった人、授乳する人など、事情のある人のためのスペースです。
それと同等の機能を持たせつつ、個室としても使えるように、掘りごたつ式の座席とテーブルを設けたのが、5000番台の「多目的室兼個室」です。
フリースペースの設備がレストランみたい、と言いました。この個室は飲食店の「小上がり」のようで(上がってないけど雰囲気は似てるという意味)、ますます「走る飲食店」です。
……ただ、あくまで「多目的室」用の場所を活用しているだけという感じ。広くはありませんし、通路に出るドアが目と鼻の先で、ドアが開いたら通路から丸見えになっちゃいます。なので、そこまで居心地のよい空間ではないという印象。ボクだったらフリースペースが満席でない限り使わないかな。
使い方としては、定期列車代走やフラノラベンダーエクスプレスなどでは「多目的室」扱いとして、あくまで事情のある乗客のために空けておき、車内でイベントを行う列車に使う時は「個室」としてふつうの乗客にも開放……という感じになるでしょうか。
多目的室を挟んで向かいには、物販などに使えるカウンターがあります。
特急「オホーツク」「大雪」でやっているような、沿線自治体による車内販売を実施する時に使えます。また、観光列車ではフリースペースで食べる食事の受け渡し場所として使えます。
車両のデビュー記念として、10・11月に道内各方面への特急列車として走りますが、その際にさっそく物販に活用するようです。今回限りではなく、このカウンターを活用したいろいろな取り組みが行われることを期待しています。
車内インプレッション ~座席車 編~
続いて、2~5号車。普通の座席車となっています。
デザインですが、座席の背もたれにカラフルなクッションが縫い付けられていて、彩りのある楽しげなデザインになっています。荷棚も木目調になっていて、ベース車と比べて無機質さが薄らいでいます。当初のデザイン案より、だいぶ良くなりました。
また、デッキ仕切り戸近くの壁には、北海道の四季折々の風景の写真が飾られています。ベース車でもデッキに掲示されていますが、5000番台では客室内に、しかも大きな写真が飾られています。
床の柄はダイヤゴナルパターン(菱形模様)ではなく、DECMO(H100形)と同じデザイン。グレー地に小さな丸模様がちりばめられています。定期列車に求められる落ち着きと、観光ムードを盛り上げるカジュアルさ・可愛らしさを兼ね備えた良いデザインだと思います。
ただ、これらを除いてはベース車と大きな違いはありません。座席の基本の色合いは似ていますし、他に目を引く意匠はありません。
観光列車として見る限り、どうしても「地味」という印象を拭えません。あまり華美にしてしまうと定期列車に使いづらくなりますが、もう一つアクセントがほしいなあ、と。
居住性ですが、先述の背もたれクッションが座席に付いていることで、座り心地がやや向上しています(個人の感想)。腰が痛くなりづらくなっていると思います。
ベース車の時点で「グレードアップ座席」なので、長時間座っていてもラクですが、5000番台ではさらにパワーアップ。
一方、イスの横幅は実質減っています。座席を向かい合わせにしても使えるインアームテーブルを設置する関係で、2席の間が完全に区切られているためです。肥満だと横幅がキツイかも。痩せてください。
テーブルですが、ちゃんと座席背面のテーブルもあるのでご安心ください。
やはりベース車との大きな違いはありませんが、もともとベース車の完成度が高いわけで、このくらいが必要十分といったところでしょう。
以上、北海鉄旅流インプレッションでした。
一般公開当日のようす(+小樽散歩日記)
せっかくなので、公開当日のようすも記していきます。ここからは車両と関係ない話が多くなるので注意。
快速エアポートで小樽へ
9月26日、札幌駅。一時に比べるとだいぶ賑わいが戻った北のターミナル駅から、まずは小樽に向かいます。
一般公開は11時から。念のため時間に余裕を持って動きたいので、小樽に10時台前半に着く快速エアポート91号に乗ります。
札幌→小樽は、以前のダイヤだとエアポートの運行は10時台からで、9時台は区間快速が1本ある以外はすべて普通列車でした。令和2年(2020年)のダイヤ見直しで9時台にもエアポートが2本設定され、観光などに便利になりました。なお10時台以降(ry
ゼータクに指定席を利用。疲労が尋常じゃなく溜まっていたので快適に過ごしたいのと、「密」を避けたかったので。
このご時世なので、指定席はガラガラ。それでも、ビジネスパーソンなど数名の利用がありました。疫病流行の状況でも、朝の時間帯にこういうニーズがちゃんとあるわけで、9時台の小樽行きエアポート設定はやっぱり正解だよなあと。
キヨスクで買った緑茶「うらら」を飲みながら、小樽までの30分強をのんびり過ごします。
整理券を掴み取れ!
小樽駅に到着。多くの乗客がホームに降りていきました。賑わいもだいぶ戻ったなと。
ボクもホームに降りると、駅では一般公開についての案内放送が流れていました。
曰く、見学希望者多数のため整理券を配るとのこと。配布場所はコンコース。一度改札を出て入場券で入ると200円損するので、時間まで改札内で過ごすつもりでしたが、そういうことなら仕方ありません。大人しく改札の外へ。
駅舎はいかにもという感じのマニア連中で混雑していました。そんなに見学者もいないだろうと高をくくっていましたが、予想を大きく超える盛況ぶりに驚き。時間ギリギリに来ていたら整理券をゲットできなかったかもしれません。早く行動してよかった……。
一にも二にも整理券をゲットせねば。すぐに列に並びます。列はマニアのほか、家族連れの姿も目立ちました。中には小樽観光のパンフ片手の方もいました。行楽ついでに寄るという感じの非鉄の方でしょうか。
並ぶこと数分、無事に整理券をゲット。11:00・20・40の3パートに分けて整理券を配っており、どの時間でも良かったのですが、係員の勧めに従って比較的枚数が出ていなかった11:40の回にしました。まあ最終的には整理券が出尽くすので、どの時間でも変わらなかったわけですが。
集合時間は案内開始の10分前、つまり11:30。それまで50分ほど時間があります。ただ待つのもアレなので……。
これがモンブラン!? 館ブランシェでChill Out
駅から徒歩10分程度のところにある「花銀商店街」にやって来ました。ここにおいしいお店があるんですよ。
そのお店の開店を待っている間、商店街をぶらぶらしていると、その上を走るJRの高架に、列車の音が響きます。
見上げると、「はまなす編成」が登場。慌ててカメラを取り出し、何とか写真に収めることができました。
まぁ、来る途中に苗穂運転所で出区待ちしてるのを見てるんですが。
それから数分、お店の開店とほぼ同時に店内へ。
入ったのは、「館ブランシェ」さん。小樽市民に長年愛されてきたケーキ屋さんです。前身の「洋菓子の館」は倒産し、多くの店舗が歴史の彼方に消えましたが、ここの店舗だけは別の会社に移り存続しています。
店内でケーキを食べることもできます。ドリンクとのセットがおトク。
食べるケーキは最初から決めてあります。モンブラン。以前食べておいしかったので、リピートです。お値段は400円、それにセットドリンクが300円です。
はい、こちらがモンブランです。
……なに、「これのどこがモンブランなのさ」って?
小樽では、これが「モンブラン」です。
そして、これがかなりおいしい。チョコレートの淡い甘味と苦味を殺さずうまく活かすのが、薄い層になっているクリーム部分。繊細なバランスが見事で、飽きが来ないケーキです。
コーヒーとの相性もバツグン。ケーキの上品な甘味を楽しみつつ飲むコーヒーは、日常のストレスでささくれ立った心をそっと癒してくれます。
店内の内装も、昭和なかおりが漂うステキ仕様。おいしいケーキとコーヒー、そしてレトロでオシャレな空間。まさにオアシスです。
あぁ、癒されるなぁ……。
……あれ、何しに小樽来たんだっけ。
いよいよお目見え、はまなす編成
こんなことをやっていたら、当然時間はギリギリになるわけで。お店を出て、急ぎ足で小樽駅を目指します。
集合時間(11:30)の数分前に駅に戻り、すでにできていた一般公開の参加者の列に並びます。
時間になると駅員が拡声器で案内を始めましたが、悪いことに千歳線の信号トラブルのせいで運休列車が発生し、その案内放送が同時に流れてきました。拡声器からの声は一部かき消されてしまいました。
運休列車の案内放送も、どうにも浮足立った感じで要領を得ず、聞いていていい気分がしません。きっちり情報を把握してから喋んなさいよ……。そういうとこやぞJR北。
それから数分、参加者がホームに案内されます。改札内なので、当たり前ですが入場には有効な乗車券類が必要。紙のきっぷで入る人は係員のいる通路に通され、ハンコ省略でスムーズに案内。Kitacaの人は自動改札に案内されました。
ボクは「北の大地の入場券」で入場。別に集めてはいませんが、何となく気が向いたので買ってみました。
ホームに出ると、お目当ての車両が、なぜか「修学旅行」の幕を出して停まっていました。後でネットを見て知りましたが、ファンサービスでいろいろな幕を出していたようです。
ホームは車両をカメラに収めようとする人たちで賑わっていました。両先頭部は人だかりとなっていて、みんな楽しそうに写真を撮っています。
……マニアの人たち、車両落成前は「ハイデッカーじゃないとかありえない」とか「地味でつまらない」とか、好き放題言っていた気がするんですけどね。いざ車両が出てきたら、やっぱり写真撮るんですね……。
まぁ、この件は忘れましょう。この日車両を見に来た人、全員が全員そういうことを言っていた人ではないでしょうし。
せっかく整理券を手に入れてここまで来たので、とにかく内装が見たい。すぐに車内見学の列に並びます。
11:40になり、列が動き始めました。1号車→5号車の一方通行での見学となっていました。
車内に入ってみて、あっと驚く……ということはありませんでした。先述の通り、だいたいの仕様は事前に把握していましたからね。
車内でも、マニアはじめ多くの人が熱心に写真撮影に勤しんでいました(もちろんボクもですが)。フリースペースはとくに注目度が高く、じっくり観察する人も多く見受けられました。
整理券を持っていればもう一回入れるので、ゆっくり撮るのは後にして、先へ。こういうイベントでは、開始直後は混みますからね。
2号車もたくさんの人がいて、座り心地を確かめるなど思い思いに楽しんでいました。座席が向かい合わせになって、インアームテーブルが出しっぱなしになっているところが何か所もあり、「あぁ、みんなやっぱりコレ試してみるんだなぁ」とホッコリ。
「グループ利用に使える、座席を向かい合わせにしても使えるテーブル」と最初に聞いた時、実はちょっと不安でした。東武100系という悪しき前例を知っているので、「座席後ろのテーブルが省略されるのでは」と心配だったからです。結局、テーブルは両方とも装備され、個人でもグループでも問題なく使える仕様となりました。まぁ、ベース車についている装備をわざわざ省略する必要は、別にないか。
ここもじっくり撮るのは後回しにして、どんどん先へ。進んでいくうちに見物人が減っていきます。2~5号車はだいたい中身が同じなので、みんな飽きて先に進んでいくのですね。
写真を撮りたい人間としては、これはチャンス。5号車に狙いを付け、人がいない瞬間を狙います。すぐにシャッターチャンスが訪れ、素早く内装全体写真を撮影。
デビュー前に「北の特急(+α)図鑑」に内装写真を載せる、その唯一のチャンスを、きっちりモノにしました。こんな風に、人のいないタイミング・場所を見計らえば、意外ときれいに撮れたりするものです。
一度車両から出て、1分ほど休憩。内装見学2周目に入ります。狙い通り、車内は少し空いてきていました。
今度はフリースペースもじっくり撮影。こちらもうまく人のいない瞬間を狙うことができ、待ってましたとばかりにシャッターを切りました。フリースペースはきれいに撮るのは難しいと思っていたので、これは儲けもの。
2~5号車もいちおうもう一回撮影。見学終了時間が迫ってきており、車内放送で「公開時間終了後すぐ回送する」と案内があったので、慌ただしく写真を撮って、降車。
その後4番線に移動してエクステリアも撮影し、ミッション終了。時間の都合で多目的室を落ち着いて撮影できなかったのが心残りですが、他はまずまずの成果でした。せっかく撮ったのに活かさなかったらただのバカなので、なるべく急いで「北の特急(+α)図鑑」にデータ載せます。
一般公開終了の数分後、車両は住処である苗穂運転所に帰るべく、小樽駅を後にしました。
発車シーンを収めようと、2・4番線のホームにはカメラの列、列。ホント、新型登場時の熱気というのはすごいものです。
12:07ころ、電子ホーンを鳴らして列車が発車。ベース車と同じエンジン音を響かせながら、駅を去っていきました。
水天宮と旧寿原邸
さて、せっかく来たので散歩でも行きますか。いや、わざわざ小樽まで来て列車撮っただけで帰るなんて非生産的なことできませんし。
小樽は数えきれないほど来ていますが、なぜか水天宮方面に行ったことがなかったので、そちらに行ってみることに。
小樽は坂の街。水天宮へは急坂を上っていきます。リアルが忙しくて健康に気を遣える状況ではなく、体が鈍っていたので、疲労もあってすぐに息があがってしまいました。危機感……。
距離自体はそこまで遠くないので、割とすぐに水天宮に到着。参拝を済ませた後、周囲の景色を楽しみます。高台なので、北側には小樽の海岸の風景が広がります。
休憩がてら、しばし眺望を楽しみます。木々に囲まれているので、その場で見る分には開放感がないですが、写真だとなかなかいい絵になります。
天気があまり良くなかったのも残念なところ。次は晴れの日に来てみたい場所です。
続いては、近くにある「旧寿原邸」を見学。
ガラスの販売などで名を馳せ、小樽を代表する実業家として活躍した寿原外吉の邸宅で、小樽の歴史的建造物に指定されています。元々は小豆で富を成した高橋直治という人物の家だったといいます。
この日は庭園の剪定体験のイベント(予約制)が行われていて、入口にトラックが乗り付けていました。そのせいで最初は入れないのかと思いましたが、近くにいた方が「入れますよ」と案内してくれたので、裏口から敷地内に入りました。
受付で検温を受け、邸内見学を開始。まず蔵に行くと、スタッフの方が邸宅のあらましについて簡単に解説してくれました。しばらく旅にも行けていないので、こういうガイドを聞くのも久しぶりです。
ただ、先ほどの徒歩移動で脳みそに酸素が行かなくなっていて、説明があまり頭に入ってこなかったのが悔しいところ。鍛え直さないと……。
邸宅は斜面に沿った造りになっていて、全部で3フロアあります。真ん中のフロアには洋風の応接室、一番上には立派な畳の間。これだけの家を建てられるor買えるだけの実業者が、まさにこの場所にいたのだなぁ、と思いを馳せます。
庭園も広いのですが、残念ながら現在は荒れてしまっています。NPOによる運営ゆえ限界がありますので、まあ仕方ないですね……。
この近辺は、かつて大商人が集まる地域だったと言います。海に関わる仕事をする人が多いので、港を見下ろせる立地が、彼らにとって都合がよかったからだと言います。今はそういう雰囲気はありませんが、かつて「北のウォール街」とまで言われた小樽の歴史の中では重要な場所だったのですね。
一通り見学を終えて、グッズコーナーで少々買い物をしてから退出しようとしたら、受付の人に「窓ガラスなんて素敵だったでしょう」と言われ、そういえば窓はきちんと見てないなと思い再度階段を上がります。
窓に注目してみると、なるほどふつうは見ない柄のガラスが付いています。寿原家はガラス産業で発展しましたが、それと関係あるのでしょうか。
改めて内装を見まわして、今度こそ旧寿原邸を後にします。
うにとじそばをじっくり味わう
そろそろ昼食としゃれこみましょう。(本当は水天宮に行く前に食べるつもりが、お店に行列ができていたので後回しにしました。)
小樽駅のすぐ近くにある、「静屋通り」沿いのそば店、「籔半」さんに入店。少し順番待ちで待たされましたが、数分ほどで席に案内されました。ここでも検温を受け、小上がりへ。
このお店もけっこうな歴史的建造物です。明治時代の豪邸「伍楽園・旧金沢友次郎邸」を移築・再利用したものとなっていまして、拡張高い佇まいで、「あれっ、普段着で一人で来てよかったのかな」と一瞬不安になるくらい。実際入ってみたらそんな敷居の高いものじゃなく、普通に「そば屋」だったので、要らぬ心配でしたが。
小上がりに座ると、そのさらに奥が石蔵を再利用したものだとわかります。この蔵は、元はこれまた明治の大金持ち、白鳥家の別邸の一部だったと言います。蔵だけルーツが別なのは、元々の店舗が焼失してしまって蔵だけ残り、そこにちょうど同時期に解体されそうになっていた旧金沢邸の部材を持ってきたためだと言います。今とは違って「保存」にあまり関心がない時代、それでも移築保存事業をやってのけた、すごい事例だったりするようです。
事前にメニューを調べておいたので、注文するものは決まっています。ちょいと豪勢に、「うにとじそば」(1,980円)。麺は普通のものと、地粉(+165円)を選ぶことができまして、北海道LOVEなボクは迷わず地粉を選びます。
そばが運ばれてきたら、さっそくお味を堪能。ちょうどいい時期で、地粉は新そば。芳醇な旨味を口いっぱいに楽しみます。
もう一つのメインが、うに。といっても生じゃなく、蒸したうにです。生の味わいはありません。
うにとじそばのうには、単体ではなく他といっしょに味わうことでその実力を発揮します。
ダシ香る蒸しうにと、溶き卵と、そばつゆ、この3つが奏でる絶妙なハーモニー。これがメチャクチャにうまい。
しばらく、あまりの忙しさに食生活がすさんでいて、「食の楽しみ」を忘れかけていました。ここで食べたそばは、久々に「食の楽しみ」を思い出させてくれました。じっくり噛んで、余すところなく旨さを堪能。
食後はそば湯を楽しみます。といっても、そば湯を出してくれるお店にあんまり入ったことがないので、ぶっちゃけあまり楽しみ方がわかっていません。ネットを活用しつつ、そのまま飲んだりそばつゆを入れたり、適当にやってみました。ほっとするような優しい味わいでした。
おいしいそばの余韻に浸りつつ、お店を出ました。
ところで、店内には「月刊おたる」という冊子(令和2年9月号)が置いてありまして、待ち時間に少し読んでみました。
読んだのは、COVID-19による観光客減少という局面に立ち向かった小樽のまちの話。若い経営者が連携して、困難な時代の中でも成果を得ているといいます。
考えてもみたら、運河再生事業に代表されるように、草の根からの活動によって今の姿になったのが小樽です。
そういう人々のネットワークが、短絡的な「経済効果」よりも地域の維持にはよっぽど重要で、北海道の観光事業はたいてい外部まかせで、市民参加がないと結局は実にならないのだ、と筆者は指摘していました。
「北海鉄旅」では、ゆくゆくは北海道の観光のことをもっと取り上げようと思っていて、そのために日々いろいろ考えているのですが、この論考はとても勉強になるものでした。
他にも面白そうな記事が載っていて、是非とも家でゆっくり読みたいと思い、お店の人に冊子のことを訊いてみると、「持ち帰ってよい」とのことだったので、ありがたく頂戴しました。
I will 撤収
さて、そろそろ帰ります。
帰る道すがら食べるのにぱんじゅうでも買おうと思ったら、お目当ての西川ぱんじゅうは売り切れ。桑田屋は札幌でも買えるので、今回はパス。代わりに小樽駅構内のお店で、前に食べて気に入ったパーラー美園さんのアイスをゲット。
買い物をしているうちに15:00の快速エアポートは行ってしまったので、後続の列車に乗ることに。ですが、15:10の普通列車だと札幌まで50分もかかるので、かったるいので見送ります。そのさらに後続の快速エアポートを待ち、その間に風情ある小樽駅のホームでアイスを楽しむことに。というかよく考えたら721系に乗れるとは限らないわけで、ロングシートの列車内で食べるのもアレので、ホームで食べる時間をつくるために列車を見送りました。
こういう「普通列車だと時間がかかってしんどい」「かといって次の快速を待つと待ち時間が長い」というのが今のダイヤのダメなところ。
さておき、アイスを食べるとします。今回は「大正浪漫アイスモナカ」(199円)。買ってすぐだと固かったので、数分待ってから食べます。
ほどよい甘さと爽やかな後味、それが美園のアイスの持ち味。この日は予想最高気温が低かったため若干厚着で来たのに、思いのほか気温が上がったので、アイスがおいしいことおいしいこと。(もっとも、3時過ぎたらだいぶ涼しくなってきてましたが。)
食べ終わったあたりで、札幌方面から来た普通列車が入線。3両編成の車内から、びっくりするほどの数の乗客が降りてきました。観光客の割合が高く、だいぶ客足が戻ってきたのだなあ、と。
そして、「普通列車から大量の客が小樽で降りた」という点が気になりました。今のダイヤは、札幌~小樽は先着毎時3本で、うち1本は普通列車です。いしかりライナーがお陀仏になってしまったので、札幌~小樽の直通需要の一部を、エアポートから逃げ切る普通列車が担うようになったわけですね。
最初にダイヤ見直しのニュースリリースを見た時、「普通列車だと遅くてかったるいし、どの便が小樽に先着するかわかりづらいから、乗客が快速に極端に集中するのでは」と読んでいましたが、少なくともこの時間帯の小樽行きは、逆に普通列車に流れたようです。
ただ、小樽までびっちり乗客がいたということは、手稲までは大混雑していたわけです。札幌~手稲間の各駅の利便性アップのために、いしかりライナーを犠牲にしてまで普通列車の本数を増やしたのに、うち1本が小樽直通客と混乗になって混雑して使いづらいとなっては本末転倒では、と。快速をうまく設定して緩急分離を図らないと意味がないのでは、と首をかしげました。
気が付いたら5番線にエアポートが来ていたので、乗車。全体的に空席が目立ちます。観光客が多いのはもっと後の時間帯でしょうかね。
帰りの列車は733系3000番台での運行。帰りは自由席利用です。2号車(M車)に乗ってモーターの音を楽しみながら移動。
札幌からは苫小牧行きで下車駅に向かうのですが、今乗っているエアポートはその苫小牧行きを手稲で追い越すので、手稲でさっさと乗り換え。そちらの方が空いているのでね。
各駅で細かく乗客を拾います。発寒で降りる人がいたり、途中駅から琴似に向かう人がいたりと、さまざまな短距離需要があるのが見て取れます。札幌を目指す流動だけでなく、こういう途中区間の需要に対してもきめ細かいサービスを提供できるので、普通列車の増便「それ自体」はやっぱり正解だったんだな、と感じました。
そんな車内を見まわしたり、ぼやっと過ごしたりするうち、下車駅に到着。これにて終了です。
……これもう「鉄道車両一般公開ルポ」じゃなくて「小樽散歩日記」だな……。
長々とお送りしてまいりましたが、いかがだったでしょうか。
今回ピックアップしたキハ261系5000番台は、「北海道鉄道140周年」の記念イベントの一環として道内各地をさっそく走り回る予定となっています。まずは10月17・18日に、団体臨時列車でデビュー。その後、10月24日~11月15日の土日に各方面の定期列車に使用され、1号車カウンターでは物販も実施されます。
さらに、11月28日から来年2月末まで、隔日で特急宗谷・サロベツに充当されます。これは、現在進行中のキハ261系基本番台の更新工事に伴う代走という側面もありましょう。
来夏からは、特急フラノラベンダーエクスプレスとしても走ることになるでしょう。
単なる便利屋・代走屋で終わるのではなく、多様に活用され、北海道の観光を大いに盛り上げてくれることを期待しています。願わくは、COVID-19の災禍からの反転攻勢の旗手となってくれることを。