十勝バスの「日帰りバスパック」を使ってみた
記事公開:令和元年12月24日
地方の公共交通を、どう守っていくか。
人口減少、モータリゼーション、そして労働力不足。地方のバス会社の多くにとっては、今ある路線を維持することすら、簡単ではなくなっています。
とくに、人口の少ない地域では、運転手を確保しようにも給料を上げられず、それを抜きにしても首が回らない……というきわめて苦しい状況の会社も多いことでしょう。
然れども、座して死を待つわけにはいかない――未来を賭けて、動き出す会社がありました。
……と、ちょいと固っ苦しいカンジで始まりましたが、今回はひじょ~~にライトなバス乗車記でございます。
今回乗車するのは、十勝バスです。といっても、バス自体が特別なワケではありません。
以前、「黄色いバスの奇跡 十勝バスの再生物語」(吉田理宏・著、総合法令出版、2013年)という本を読んだのですが、文中で紹介されていた、従業員が開発した商品である「日帰りバスパック」というのが気になっていたんです。
日帰りバスパックはいろんな種類がありまして、スイーツめぐりや豚丼とのセット、観光地をめぐるパックなどがあります。
で、先日ムショーに帯広に行きたくなったので、JRの「えきねっとトクだ値」を買って、特急で帯広に行って、バスパックで豚丼を食べに行くことにしました。
特急スーパーとかち1号(札幌7:54 → 帯広10:36) 車両:キハ260-1306(6両編成・4両目)
とゆーわけでまずは帯広へ。トクだ値で45%オフで乗れるスーパーとかち1号に乗車。10月中旬以降毎日のように1両増結しており、この日はどうどう6両編成。増結していることは知っていたので、増結車両に狙って乗車。
札幌~帯広間には10月から高速バス「帯広特急ニュースター号」が参入し、従来の「ポテトライナー」とJRの三者での戦いとなっています。バスの好調ばかりが報道されるのでJRの乗客が少なくなっていると思われていますが、JRも最近はいつも増結しています。この日は2両増結にもかかわらず普通車指定席は各車20名弱が乗っていて、一時の惨状を考えるとまずまずの健闘。バスもJRも乗客が増えている……?
ともあれ、すっかり雪景色になった南空知の景色を眺めつつ、一路十勝へ。
シカのせいで列車が遅れ、帯広には所定10時36分着のところ、5分ほどの延着。
このあと乗る予定のバスが駅前ターミナル48分発なので、乗り換え時間は7分くらいしかありません。
急いで駅北口から外に出て、ターミナルへ。きっぷ売り場に駆け込んで、窓口でバスパックを求めます。
今回使うのは、先述の通りバスと豚丼のセットです。有名な豚丼のお店の食事券と、その店の最寄りバス停までの往復きっぷがセットになっています。
窓口では、きっぷの他に時刻表と地図をいただき、「お店の方に行くバスは2系統ありますが、こっちの方が近くまで行きますよ」と説明を受けました。バスは鉄道に比べてわかりづらい乗り物ですので、こうやって説明したりして、ソフト面で使いやすい商品にするのが大事ですね。
発車時刻が迫っているので、窓口で乗り場を教えてもらって、乗り場にダッシュ。発車数十秒前になんとか乗車。
十勝バス 1-1系統(帯広駅バスターミナル10:48 → 東4条16丁目10:53)
黄色いバスに乗り込んで、「東4条16丁目」バス停を目指します。といっても割とすぐ着くので、札幌のマチナカで「100円バス」を使うような感覚です。
平日のデータイムとあって乗客は2~3人ほど。閑散とした車内から、窓の外を眺めて過ごします。日高山脈を越えたこちら側はまだ雪が全然積もっておらず、少し季節を戻ったような感じがします。
バスを降りたら、目当てのお店までは15分ほど。もっと近くまで行ってくれる系統のバスもありますが、本数が少ないので歩いた方が早いわけです。
道中のマックスバリュで飲み物を補給しつつ、晩秋の淡い日差しの中を東に向かって歩きます。
新しめの住宅街の、外れのあたり。札内川に沿って延びる道道に、その店はあります。
帯広豚丼の名店として名高い、「とん田」さん。
バスパックは、このとん田さんの食事券が付いていて、豚丼並盛1杯と引き換えることができます(大盛不可)。
11時台前半だというのに、すでに多くの客が食事をしていてビックリ。カウンターに空きを見つけて着席。
豚丼はロース・バラ・ヒレの3種から選べます。「基本形」だというロースを選択、「この時間でこんなに人がいるならおいしいに違いない」と大いに期待して注文しました。
しばらく待つと豚丼が登場。さてお味は――
「……はぁ!?」
一口食べて最初に心の中で言ったのがこのセリフです。
何だコレ。ウマすぎる。
米の上に豚肉のっけてタレかけただけのモノになんでボクこんな感動してんだ!?
なるほど、平日の11時台から人が来るわけです。正直、「しょせんは豚丼だろ?」くらいにしか思ってませんでした。懺悔。
豚肉は十勝産ということで当然モノがよく、それを丁寧に手切りして焼いているとのこと。脂もしっかり切ってあって食べやすく、どんどん箸が進みます。
そしてタレがまたいい。ほどよく甘辛く、主張しすぎない味わいで肉の旨さを引き立てます。
タレは最初からかかった状態で出てきますが、後から自分で追加することが可能。タレの味ももっと楽しみたいと思ったので、半分くらい食べてからタレを追加。その絶妙な味加減をさらに楽しめ、食欲にブーストがかかりました。
このところ疲労とストレスで若干食欲が落ちていたんですが、それでも難なく完食。予想と期待を大幅に上回るおいしさで、気づけばペロッと食べてました。
……ボクは十勝の食の魅力を高く評価していたつもりだったんですが、むしろナメていたのかもしれません。恐るべし十勝。
暇。
駅に戻るバスまではけっこう時間があります。地方のバスで、データイムなので、本数は少ないわけです。時間をつぶす必要があります。
とりあえず周囲を散歩。といっても単なる住宅街で、変わったものがあるわけではありません。近くを札内川が流れますが、河原まで行く時間は逆になさそう。
ちょっと風が出てきたので、肌寒くなってきました。来る時は穏やかで過ごしやすかったのですが、今この暇な状態でさらに寒いとなるとしんどいなあ。
バス停の近くもホームセンターとパチンコしかありません。出先のホームセンターで買い物をすることもありませんし、パチンコなんて柄じゃありません。何より、時間短縮のために金を使うならまだしも、時間をつぶすのに金を使うなんてイヤです。暇な時間をぼんやり過ごすより仕方ありません。
十勝バス 6系統(東8条16丁目12:13 → 大通11丁目12:22)
適当に時間をつぶしてから、バス停に向かいます。さっきと同じ系統ではなく、先述の「もっと店に近いところまで行ってくれる系統」を使います。
先ほどとは違うバス停で、しばしバス待ち。
やって来たのは、ずいぶんと小柄な車体。コミュニティバスのような雰囲気です。乗客もやはり数人程度で、ますますコミュニティバスな感じ。
バスはやたらと路肩に寄り、ボテボテと低速で走ります。なんじゃそりゃ、と思いましたが、バス停の間隔の狭さを見て納得。頻繁にストップ&ゴーを繰り返す形になるので、そういう方が合理的なんですね。
……とはいっても、常に路肩に寄って走るのは道交法違反な気がするんですが……。
ともかくのんびりとしたバス旅……だったんですが、「協会病院前」バス停から大量の乗車があり、一気にほとんどの座席が埋まりました。単なる零細路線ではなく、通院路線だったんですね。
この辺から街の中心部に近づいてくるので、車窓の雰囲気も違ってきます。協会病院前を境に、一気にムードが変わりました。
バスは駅前ターミナルを経由しますが、午後の行程の都合上、途中のバス停で下車。これでバスパック小旅行はおしまいです。
この後は帯広市内のスイーツ・甘味を楽しんだり、十勝川温泉に入ったりして過ごし、スーパーおおぞらで帰りました。(詳細は割愛します。)
さて今回のバスパック、実際に使ってみて「けっこう良いな」と思いました。
セットだからといって割引額は微々たるものですが、それ以外にも利点がありました。「わかりやすい」ことです。
バス路線が指定されているので、どのバスに乗ればいいかを調べる手間が省けました。
また、「バスパックがあったからこそ」駅から離れたお店に行く気が起き、おいしい食事を楽しむことができました。実は「帯広に行こう」と決めた当初の時点では、日帰り旅行で時間がないこともあり、食事は駅前で適当に済ますつもりでした。でも、バスパックがあるから、お店の場所と行き方を調べることなく、駅から離れたお店に行けます。そういう意味ではラクなので、「よし、使うか」という気分になりました。もちろん、冒頭に述べた通り「バスパックのお試しがてら」というのもありましたけどね。
ただ、バスの本数が少なく、バス停からもそれなりに歩くので、ゲタのように気軽に使えるわけではありませんし、タイムロスも少々気になります。近いところまで行ってくれるバスは本当に本数がないですし、もう1系統は徒歩15分、本数はこちらも多いとはいえず1時間に2本、しかもうち1本は土休日運休。どうしてもムダな時間が出ちゃいますし、寒い時期なので待ち時間が少々しんどかったです。
既存のバス路線を活用したパックなので、まあ仕方ありませんね。
そういう使い勝手の悪さもあってか、この時はボクの他に同じ経路で豚丼を食べに行く人はいませんでした。観光のハイシーズンならもう少し使う人もいるのかもしれませんが、恒常的に利用のある商品にはなっていないようです。まあ、観光の時期を完全に外していて、しかも平日ということで「そりゃそうだろ」という感じもしますがね。
とはいえ、利用の少ないデータイムに既存のバス路線を活用して、コストをかけずにちょっとでも乗客を稼げると考えれば、良い施策だと思います。札幌からえっちらおっちら車転がして、あの路面の悪い道東自動車道を通って食べに来るよりははるかにラクですし。
経営のかなり厳しい十勝バス。こうして少しでも利用者を増やして、なんとか生活路線を残そうとしています。これからの公共交通を考える時、ひとつのモデルケースとして着目できそうです。
というわけで、「急に帯広に行きたくなったのでせっかくだから前から気になってたバスパックを使ってみて帯広の豚丼を食べてあまりのおいしさに仰天した話」でした。
今後も、交通機関を活用したおもしろい旅行商品とかを見つけたら、実際に使ってみて特集してみようと思います。
では本日はこのへんで。お読みくださりありがとうございます。みんなの努力と工夫が公共交通を救うと信じて!