歴史⑥ / 札幌~函館 特急「スーパー北斗」「北斗」 - ゲニウス(北)の北海鉄旅いいじゃないか
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札幌~函館間 歴史 第6章 暗黒時代 / 北の特急(+α)図鑑

うたかたの夢

最速2時間59分、表定速度106.8km/hという記録を打ち立てたスーパー北斗。しかし、JRは飛行機に引導を渡すべく、さらなる速達化を目論んでいました。

「鉄道復権」が叫ばれた平成初期は、JRグループは新幹線だけでなく在来線でもライバルの交通機関を圧倒すべく、列車の高速化に取り組んでいました。最高速度160km/hでの運行を目指すプロジェクトがいくつも計画されていたのです。

スーパー北斗もこのひとつで、現在でも例のない「気動車による160km/h運転」を視野に入れたさらなる技術開発が考えられていました。

図1:JR北海道の夢と技術が詰まっていた、キハ285系の試作車(写真中央付近)

JR北海道が挑戦したのは、技術のカタマリと呼べる超高性能車両の開発でした。

振り子と空気バネ式の両方を使い、最大で8°まで車体を傾け、曲線通過速度本則プラス最大50km/hとする「ハイブリッド車体傾斜装置」を開発しました。車体傾斜装置には、キハ281系などに搭載される振り子(最大傾斜角5~6°程度)のほか、「空気バネ式車体傾斜装置」(最大傾斜角2°程度)という新たな機構がありますが、その2つを組み合わせることで傾斜角度を増やすというのです。

さらに、キハ160形気動車を改造して、蓄電池を使い、エンジンの力を補いつつ回生ブレーキも実現し、燃費を向上させる「モーターアシスト式ハイブリッド気動車」の開発も行いました。

それぞれ平成18年・平成19年に開発が完了し、平成26年にはこの両方の装置を乗せ、さらに140km/hでの走行が可能な、次世代の特急型気動車「キハ285系」の試作車が製造されました。

この車両を量産し、新幹線の函館延伸と同時にスーパー北斗に投入して、札幌~函館間の所要時間をさらに短縮する。

――これが、JR北海道が思い描いた、夢でした。

最悪の一年

平成23年5月27日、石勝線・清風山信号場で起こった、トンネル内での脱線・列車火災。キハ283系が焼けただれ、あわや犠牲者100人単位の事態となったこの重大事故はしかし、悲劇の始まりにすぎませんでした。

翌平成24年9月18日には、北斗でもインシデントが発生。北斗14号として走っていたキハ183系のエンジンの「スライジングブロック」という部品が破損。

そして迎えた平成25年。この年は、北斗にとって、まさに最悪の一年間となりました。

4月8日、7月6日と、立て続けに北斗のキハ183系のスライジングブロックが破損。いずれも乗務員が出火を確認し、消火をおこなったため、乗客・乗務員は無事でしたが、一歩間違えれば大惨事でした。

スーパー北斗のほか、スーパーおおぞら・スーパーとかちでも使われていたキハ283系にも、トラブルが相次ぎました。1月7日にはスーパーおおぞらで走行中にひとりでにドアが開く問題が発生。7月15日には、同じくスーパーおおぞらの配電盤から出火。

さらに、9月19日に起きた大沼駅での貨物列車脱線がきっかけとなり、保線職員がレール幅の検測結果を改竄していたことが判明しました。運転士の覚醒剤使用やATS車上装置破壊という違法行為もあり、車両だけでなく線路、そして会社全体にも問題があることが明るみに出ました。

この異常事態を受け、国土交通省が動きます。清風山信号場での脱線を受けて事業改善命令が、スライジングブロック破損を受けて社長への直接注意が出されました。

JR北海道は、早急に安全のための対策を打つ必要に迫られました。


7月6日の北斗の出火事故を受けて、JR北海道は問題の車両と同じ型のエンジンを使う車両の運行を停止しました。この時点で出火の原因がわかっておらず、対策のしようがない中で運行をするわけにはいかなかったからです。

このエンジンは、旧式ながら日本の鉄道では類をみない660PSという強馬力を誇っていましたが、トラブルという形で綻びが出てしまいました。

図2:平成25年夏に運行された臨時特急北斗91号。8月14日に登別駅にて撮影

これを補うため、7月13日から臨時の北斗を運行。最初は1往復で、夏の観光シーズンを迎える8月からは乗客が見込める日にもう1往復が運行されました。車両は「出火した車両とは違う型のエンジンを積んだキハ183系」の寄せ集めや、ノースレインボーエクスプレス・ニセコエクスプレスを使用しました。スーパー北斗と合わせた本数は11往復から8~9往復に減少、スピード面でも臨時北斗の遅さが目立ちました。

お盆の時期は北斗の混雑に拍車がかかり、JR北海道が高速バスの利用を呼び掛けるほどの事態に。また、ニセコエクスプレスが使用された列車では、わずか3両の列車に乗客をすし詰めにすることとなりました。「破綻」と言っても過言ではない、まさに最悪の状況にまで、北斗は落ちぶれてしまいました。

11月1日に、安全重視や車両負担軽減を全面に打ち出したダイヤ改正が行われました。

スーパー北斗は最高速度が120km/hにダウンし、最速列車の札幌~函館間の所要時間は3時間26分と一気に悪化。

事故やトラブルが相次いでいたキハ283系は、火災による車両焼失に加え、配電盤出火があった車両の第三者機関による評価のために当該車両を使えないため、車両不足が発生していました。そのため、キハ283系はスーパーおおぞらに専念することとなり、スーパー北斗からは撤退。これによってスーパー北斗は2往復が減便。

臨時北斗は、スーパー北斗減便を受けてか、毎日運転が2往復・不定期列車が3往復の計5往復に増加。スーパー北斗と合わせて、1日7~10往復となりました。10往復運転は年末年始に実現。ただし、一部の日には相変わらずニセコエクスプレスが充当されていました。

停車駅は列車ごとの違いが少なくなり、速達便(新札幌・南千歳・苫小牧・東室蘭だけ停車する便)はなくなりました。最高速度ダウンによって、停車駅を絞って所要時間を削る意義が薄れたため、スピードをある程度捨てるかわりにできるだけ停車駅を統一して、わかりやすさを重視したものと思われます。


図3:平成25年11月改正から設定され、平成26年3月改正でも運転継続となった臨時特急北斗86号。所定4両のところこの日は5両編成で、先頭からキハ183-1501、キハ183-4560、キハ182-45、キハ182-41、キハ183-4559。平成26年6月5日に登別駅にて撮影

平成26年3月15日のダイヤ改正では、スーパー北斗1本を運休とし、その車両を使って北斗1本を復活させるという変更がありました。これによって、キハ281系の「北斗」が見られました。乗客の多い時間に輸送力を確保するのが目的とみられます。

また、この改正で不定期の北斗は1往復に減りました。その1往復は7月から毎日運転となり、毎日運転の臨時北斗は3往復となりました。また、ニセコエクスプレスでの運用も6月までで終了。キハ283系やクリスタルエクスプレスが臨時北斗に入ったため、本数が確保できたようです。

キハ283系は第三者機関の検証を受けていたキハ283系8両が運用に復活しました。それでも、キハ283系がスーパー北斗の定期運用に戻ることはありませんでした。高速化の代償として、車体の痛みが進んでいるのでしょう。一方で、車両が増えたキハ283系は「スーパー北斗」などの代走や臨時列車の出番が生まれ、波動用としての地位を得ました。

いずれにせよ、北斗がスピードと輸送力を失ったのは変わらず、北斗は辛酸をなめ続けることとなりました。

傷ついた北斗、失われた信頼

平成26年8月1日。エンジン出火車両と同型のエンジンを使用するキハ183系が運用に復帰。これでスーパー北斗1本・北斗3.5往復が復活し、定期列車はスーパー北斗5往復・北斗4往復となりました。

エンジン出火の原因であるスライジングブロックの破損は、高速化のためにエンジンを改造したはいいのですが、そのために部品が大型化されてその動きも大きくなり、油圧にも大きな変化が生じていたので、負荷がかかっていたためであるといいます。さらに、スライジングブロックが破損した後もポンプが止まらない機構だったため、エンジン出火にまで行き着いてしまったといいます。

原因がようやく究明され、当該車両はスライジングブロック破損やエンジン出火を防止するための改造を施されたうえで復帰しました。

しかし、この改正でも、本数は従前の11往復に戻りませんでした。片道あたりの車両数で見ても、平成24年以前は69両(全列車所定編成の場合)だったのが、この改正以降は55両(同)と、2割以上の減少となってしまいました。

加えて、スーパー北斗・北斗に使用される車両の状態も、万全とはいえないものです。キハ183系はエンジンの問題を抜きにしても、昭和61年~平成2年製であり、劣化が進んでいる状況です。キハ281系も、平成26年7月6日にブレーキの部品の鉄粉から発煙し、乗客に不安が走りました。

先述のキハ285系の開発も、中止されることとなりました。特急のスピードダウンが行われる中にあって、140km/hでの高速運転を北斗において行うことなどありえず、キハ285系を量産してもオーバースペックとなってしまいます。また、「ハイブリッド車体傾斜装置」「モーターアシスト式ハイブリッド動力」といった特殊な装置を抱えるうえ、少数派の車両となってしまうというコスト要因が重くのしかかる点も、見逃せませんでした。本来の計画どおり量産されていれば、当初の目論見どおりスピードアップや燃費向上を果たし、コストパフォーマンスを向上させることができたのかもしれませんが、現状では高速性能を持て余すこととコスト自体の大きさが障害となりました。

当面は再度のスピードアップも望めないどころか、既存の車両もボロボロ。輸送力も低下。最悪の状況は脱したとはいえ、北斗は相変わらず、苦境に立たされ続けます。


JR北海道は発足以降、札幌圏や札幌対各都市間輸送の列車を高速化するために、新たな車両を投入し、路線の改良も行っていきました。

それは、人口の少ない北海道に位置するJR北海道が、鉄道を維持し、収益性を改善するために採った方策でした。座して死を待つのではなく、鉄道の大量輸送・高速性を武器に積極的に仕掛けることで、乗客増加を狙ったものです。実際に乗客の増加に寄与しており、施策としては成功といえるでしょう。

手がけてきた数々の車両は、技術的に優れたものです。それらの功績は、褪せることはないでしょう。

しかし、安全あっての高速化です。安全という、交通に携わる者として不可欠のものを疎かにしては、高速化は片手落ちとなっていると言わざるを得ません。

むろん、北海道の鉄道はこれ以前も事故と無縁だったわけではありません。戦前は事故が多く、戦後それを減らしてきたものの、JR化後に特急おおぞらの脱線(平成6年2月)・トンネルのコンクリート塊落下(平成11年11月)がありました。二度とそのような事故を起こさない、と誓ったはずなのに。なぜ安全対策がおざなりになってしまったのか。

それは、安全に対する投資をする余裕がなくなってしまったからです。

JR北海道は、路線の高速化やサービス改善に奔走する一方、経営状況に応じたサービスの抑制ができていませんでした。民営化後、事故が多発する平成25年までに廃止された路線は、特定地方交通線として廃止が決まっていた路線を除けば、函館本線の上砂川支線のみ。乗客皆無の列車も、多数が存置されていました。

沿線から見捨てられるのを恐れたのか、JR北海道は沿線自治体に「よい顔」をするため、サービスの思い切った切り捨てができなかったようです。

結果、経費の圧縮ができず、財政が圧迫され、安全投資の部分を削ってしまうという間違った経営判断に至ったようです。

その他、定時運行を優先するあまり、異常を感じても列車を停めたくないと考えてしまう空気や、風通しの悪い企業風土も、悪い方向にはたらいてしまったといいます。

悪循環がとうとう顕在化し、事故を多発させてしまったJR北海道。減速・減便もあって、札幌圏以外の利用客が明らかに減少してしまいました。

「よい顔」をしたばかりに、かえって沿線の信頼を損ねてしまったJRの都市間列車。とくに事故・運休が響いた北斗は、平成24年と同26年を比較すると、輸送力は2割減(通過する特急列車の車両数で計算)、乗客数も1割半(お盆期間10日間で計算)の減少という大痛手となってしまいました。

でも、このまま腐るにまかせては、地域の足を奪うことになってしまいます。北斗の、再起をかけた闘いが始まります。

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