北海道新幹線迷開業事⑦ 北海道新幹線の役割とは?(平成28年3月20日)
「北海道新幹線迷開業事」もはや7回目。長いシリーズになっちゃいました。
本当は今回で最後にする予定でしたが、ちょっと今日の新聞記事に頭にきたので急遽予定変更。
今回は新幹線はあまり出てきません。第1回と同様、新幹線の周辺の話題です。
今回皆さんに覚えて帰ってほしいのは、新幹線の、そして鉄道の本来の役割は何か、ということ。
ここがわかっていないと、新幹線をどう地域に生かすかという議論は、芯のないものになっちゃいます。
何かって、件の新聞記事がそこらへんをなーんにもわかってないので、そこを徹底的に批判するよ、ってお話。
津軽海峡フェリーの戦略をどう見る?
まずは、北海道新幹線の競合輸送機関であるフェリーのお話を見てみましょう。
函館と青森を結ぶ交通は、古くは船しかありませんでしたが、1988年にJR津軽海峡線が開業し、特急はつかり・快速海峡が登場して、鉄道と船の二本柱になりました。
これが、新幹線の開業に伴い、新幹線とフェリーの二枚看板に変わるワケですね。
両者の料金を比較すると、特急白鳥で乗車券3240円+特急券2250円の計5490円。フェリーは、津軽海峡フェリーだと最安値2220円、青函フェリーなら最安値1630円+燃油サーチャージ(いずれも初版執筆時点)。つまり、「速さのJR、安さのフェリー」という構図になっています。
さてここからが本題。今年の新幹線開業を機に、津軽海峡フェリーは新たにフェリーを2隻も新造するという策に打って出たワケです。これをどう見るか、というお話です。
マスメディアは、これを「新幹線との相乗効果を狙った戦略」「新幹線で増える観光客の取り込み」として報道しています。
しかし、これは浅い分析です。
当然、この新型船建造は、老朽化した船の置き換えをメインの目的としています。ボクが数年前に乗った「びるご」はいつの間にか退き、現在も残る「ブルードルフィン」「びなす」も結構年配です。
でも、置き換えにはちょっと早い。なのに、なぜ置き換えをするか。そこは報道の通り新たな客の取り込みですが、どんな客かというところを読み違えているものと思います。たしかに公式で観光客の誘致に言及してはいますが、その腹の内は違います。
新幹線開業によって何が起こるか。そう、JRの運賃・料金の上昇です。函館新幹線駅経由なので距離が伸び、第4回でお話しした通り特急料金も跳ね上がります。そうなると、函館~青森の相互利用だとかなり高くついてしまいます。
そこへ行くとフェリーは相変わらずの安さ。とすると、地元客を中心に、高いJR料金を嫌って乗客がJRからフェリーへと移る動きが起こるはず。
今年の津軽海峡フェリーの戦略は、こうして流れてくる乗客をキャッチすることが最大の目的であろう、と考えられます。
つまり、乗客の「増加」ではなく「転移」を好機ととらえているんです。
ここで、「ナッチャンRera」の話を思い出してください。
ナッチャンReraは、JRのスーパー白鳥に勝るとも劣らぬ速さを誇った船ですが、料金の高さが嫌われてあっという間に消えていきました。
ここからも、地元利用客がいかに運賃・料金を重視しているかがわかります。
この話から、青函エリアにおいて安さという要因がいかに大事かがわかります。津軽海峡フェリーは、安さを武器に地域輸送のシェアを取りに来ているんです。
新幹線とフェリーの立ち位置
では、JR北海道はなぜ、あのような高額特急料金を課すのか。なぜ、地域輸送のために赤字覚悟で安くするのではなく、赤字を減らすために地域輸送を捨て去るような料金設定にしたのか。
ここで、冒頭の「新幹線の役割ってなんぞや?」という話をしてみましょう。
そもそも鉄道というのは、貨物を運ぶ輸送機関として誕生しました。それが、日本では旅客を運ぶウェイトが大きくなっています。どちらにせよ、長い距離を、速く、大量に運ぶことを得意とする交通機関です。
さらに新幹線は、自動車に対して圧倒的なスピードで、飛行機とは比べ物にならない数の客を運ぶ、広域輸送をメインの目的とする交通です。
逆に言うと、新幹線にとって、1~3駅程度の区間の地域輸送は少なくともメインの役割ではありません。2駅だけ走る新幹線としては北陸新幹線つるぎがありますが、あれも特急サンダーバード・しらさぎからの乗り継ぎで広域輸送を担っています。
JR北海道・JR東日本の思惑としては、まさにこの新幹線の本来の役割という原理原則に基づいて、函館~青森の地域輸送よりも、函館~仙台・大宮の広域輸送をとったというところでしょう。
つまり、函館~青森の地域輸送についてはフェリーに客が逃げることを許容しても、長距離の乗客はスピードを武器にガッチリ確保するという戦略なのでしょう。なるほど長距離客の方が客単価は高いですし、鉄道という輸送手段の趣旨にも合います。
こうやって見るとごくごく当たり前に思えるこのお話。でも、ここらへんをきちんと理解している人って、意外と少ないように思うんです。
サービス低下? 新幹線が悪い?
最近、某新聞ではとにもかくにも「JR北海道はサービスを改悪している」と喧伝し、「新幹線以外のサービスが低下するなら新幹線はなくてもよかったかも」という道南以外の地域の声を拾っています。
上述のお話をちゃんと理解している人は、こういう記事は鼻で笑って流すはずです。
いいですか。まず、最近のJR北海道のサービス低下――ローカル普通列車減便、路線廃止、駅廃止――は、実はサービス低下とは必ずしも言えません。
確認ですよ。鉄道の役割は、大量、速達、広域の輸送です。ここからのお話はすべてこれが前提です。
ここから考えると、広域輸送を担うことができず、乗客も極端に少ない普通列車の廃止はその路線の趣旨に沿わないものではありません。客が少ない路線が廃止されるのも当たり前です、大量に人を運ぶことができないんですから。利用客がいない駅も廃止されて当然、大きな街どうしを結ぶ路線なんだからそれ以外で人が乗らない駅は不要です。
たったこれだけの話を、理解してくれない。
続けます。仮にこれらをサービス低下と考えるにしても、それをもって新幹線を悪者扱いするのも、阿呆の所業です。
念のためもう一回確認。鉄道は、たくさん、速く、遠くに客を運びます。いいですね。
ということは、です。JRは、細かい輸送を捨て置いてでも、大量に客を運べるプロジェクトを優先します。JR北海道が「新幹線に人・モノ・カネを集中する」旨の発表をしたのは、こういう意味です。鉄道の本質もそうですが、企業目的からしてもあまりに当然。
たったこれだけの話を、理解してくれない。
本質的な部分をなんら理解することなく、鉄道ファンの、あるいは市町村の意見、というか屁理屈を代弁するだけの記事を、某新聞は粗製濫造しているワケです。
やれ「ローカル線改悪」、やれ「寝台列車バンザイ」、やれ「古き良き国鉄時代」と訳の分からない妙ちくりんな記事を(おそらく書いた本人も意味をわかってないんでしょう)出しまくって、まるで「新井が悪い」と連呼するなんJ民のごとくJR北海道を吊し上げ、読者に大事なことを伝えようとしない。道民の声を代弁するどころか、単に大便をまき散らしているだけ、と言っても差し支えないでしょう。
This is 「はんかくさい」
ただでさえ北海道新幹線は遅くて使い物にならないのに。ただでさえ客が少なくて困っているのに。
道新(あ、新聞名言っちゃった)はいつまでたってもくだらない記事を書くのを止めない。一方で、道内では頭のおかしい議論ばかりが行われる。「倶知安まで先に延ばせ」とか(スキーヤーのためだけにそんな半端なとこまで延ばすとかアホかとバカかと)、「貨客混合列車を走らせろ」とか(100年前の発想を今更引っ張り出す幼稚さよ)、噴飯物の意見ばっかり。果ては、第1回で紹介したように、飛行機を新幹線の下僕にしようとする。
「そんなことだから、北海道新幹線を生かせないんだ!!」 ……1年後くらいに、ボクは彼らにこう怒鳴りつけて差し上げたい。
北海道弁に「はんかくさい」という言葉があります。アホらしいという意味です。これぞまさしく「はんかくさい」お話です。
お読みになってくださった皆様、どうかこれらとは同じ道を歩まぬよう願います。鉄道は、「たくさん、速く、遠く」です。どうか、どうかこれだけは理解してからお帰りください。お帰りは公共交通機関で。
……いやあ、しかし今回はマジギレでしたな。そもそもこの連載自体が「飛行機を二次アクセスに」という報道にマジギレして始まりましたから、ある意味集大成?
当サイトは、負の感情をできるだけ押し殺して作っています。なのでこんな筆致が見れるのはこの連載とこのページくらい。結構レアでっせ。
採算すら怪しいと思われる、いわく付きの新幹線、北海道新幹線。
当然と言いますか、その周辺には様々な迷要素が存在しています。
この連載では、北海道新幹線の開業を前に、それらのおかしな要素を取り上げ、狂いつつある北海道の交通をネタにしていきます にスポットライトを当てていきます。