歓迎! キハ261系5000番台(仮称)
記事公開:平成31年4月21日
資金難。安全対策。観光列車運行の強い要望。その問題に、JR北海道が出した答えが、これだ――
2月14日、JR北海道はプレスリリースで4つの観光列車の計画を発表。近年の北海道では、登場する列車よりなくなる方が多かったですが、ここにきて新たな風が吹き始めました。
もっともそれらの計画は、初期投資が少なく済む、既存車両を使った計画が多いです(道内で走っているキハ40形の改造や、本州からの観光車両の乗り入れ)。そんな計画の中に、ひときわ強く光り輝く、二輪の花がありました。
キハ261系5000番台(仮称)。改造でも譲渡でも諦めでもなく、車両を「新造」するというのです。
今回は、新車投入の背景や、ニュースリリースから読み取れる限りの特徴について、解説してみたいと思います。
※以下に紹介する車両の仕様は検討段階のものです。実車の仕様とは異なる場合があります。
列車の概要・仕様
まずは、今わかる範囲でのスペックなどをまとめます。
製造されるのは、5両編成×2本。キハ261系1000番台がベースです。
1000番台とは違って、1号車はグリーン車ではなく、飲食やイベントに使えるフリースペースになるようです。つまり、グリーン車のないモノクラス編成となります。1号車がフリースペースというとキハ183系旭山動物園号編成を思い出しますが、スペースのコンセプトは結構違います。
座席のテーブルは、座席を向かい合わせにしても使えるような仕様となります。グループ利用がしやすいので、団体列車に使いやすくなります。
このほか、パソコン・スマホの充電に使えるコンセントを設置。道内の特急グリーン車のコンセントと違い、「パソコン専用」ではないようです。無線LANも完備されます。
デビューは今年ではなく、来年(令和2年)の秋ごろの予定です。
なお、一部報道などでは誤った紹介がされていました。
まず、キハ261系5000番台(仮称)の愛称が「山紫水明」号だと書いているサイト等がありますが、その名前は同日に発表されたキハ40形改造の観光車両の愛称です。キハ261系5000番台(仮称)の愛称は、まだ検討中です。(今のところの仮称は「はまなす」編成・「ラベンダー」編成です。)
もう一つ、このキハ261系5000番台(仮称)が、「既存の特急車両の改造」によって導入されるとの誤報がありましたが、本当は先述の通り「新製」です。おそらく、「山紫水明」と混同したのでしょう。
いずれも、報道発表資料をざっと読めば分かる程度のことを誤るという重大な過失です。ほぼ「フェイクニュース」のレベルです。全く……。
「多目的特急車両」として開発
今回製造されるキハ261系5000番台(仮称)は、「多目的特急車両」として開発されます。
具体的には、以下のようにいろいろな役割を担うようです。
- 観光列車・イベント列車
- 多客期の臨時列車
- 定期列車の代走
定期列車用という位置付けはせず、波動輸送をマルチにこなし、場合によっては代役も担う。つまりは、ノースレインボーエクスプレスと同じような使い方を想定しているのです。
「2編成が製造され」、「ノースレインボーと立ち位置が同じ」。キハ261系5000番台(仮称)は、現在JR北海道が保有する2本のリゾート特急車両――ノースレインボーと、クリスタルエクスプレス――の置き換え用だ、という意図が透けています。
……という予想をTwitterの方で流していましたが、その後4月9日に公開されたJR北海道の中期計画で、「クリスタルエクスプレスとノースレインボーエクスプレスを、キハ261系5000番台(仮称)で置き換える」と明示されていました。
ノースレインボー七変化① 季節特急「フラノラベンダーエクスプレス3号」(平成29年7月25日)
ノースレインボー七変化② 多客臨「北斗88号」(平成29年5月6日)
ノースレインボー七変化③ 団臨「元気です 北海道号」(平成30年11月17日)
ノースレインボー七変化④ 特急「サロベツ3号」の代走(平成30年9月17日)
リゾート編成置き換え用の「多目的特急車両」には、どんな車両が向いているでしょうか。それを明らかにすべく、担当することになるであろう列車の性格を紐解いてみます。
- フラノラベンダーエクスプレス
- 毎年7月を中心に運行される、ラベンダーや美瑛の丘などを見に行く大量の観光客を運ぶ重要な列車です。
- 乗車時間は長くて2時間強と、長距離列車とは言えません。また、移動手段としての性格が強い列車で、個室・コンパートメントなどの「個性」よりも、むしろ輸送力が必要です。
- つまり、グリーン車はなくてもよくて、普通車、かつ座席車が主体となる車両が求められます。
- 多客臨
- フラノラベンダーエクスプレス以外にも、お盆や正月を中心に、定期列車の輸送力を補う増発列車としての起用が考えられます。
- 上と同様、輸送力を確保するために座席中心の車両が適しています。また、「輸送力列車」という性格上、グリーン車や個室は重要ではありません。
- ツアー列車
- おととし実施された道庁主導の「モニターツアー」のような、「ツアー旅行の移動手段」として使うことが想定されます。
- 同じ座席がズラっと並ぶ車両の方がそういう目的で使いやすく、個室やグリーン車など、通常の普通車と差別化された設備は、かえって邪魔になります。
- 定期列車の代走
- 代走車両は、定期列車と同じ所要時間で走れて、定期列車と座席の位置が同じなのが理想です。
まとめると、「多目的特急車両」に求められる条件は、次の通りです。
- モノクラス(グリーン車なし)
- 座席主体(個室なし)
- 定期列車とできるだけ性能が同じ
- 定期列車とできるだけ車内設備が同じ
そこへ行くと、キハ261系5000番台(仮称)は、まさに最適解。オール普通車で座席車のみ、しかもキハ261系1000番台ベースなので性能・座席位置などがおそらく同じ、と見事に条件を満たしています。
観光列車らしいスペシャル感が薄い、悪く言えば「つまらない」車両と思われるかもしれませんが、こういう車両が必要なんです。
この辺の話題についても、一部報道等記事で誤った記載・印象操作がありました。一応斬っておきます。
「普段は定期列車で使う」との報道がありましたが、やや語弊があります。定期列車の代走なども想定されてはいますが、「定期運用を持つ」ということではありません。(先述の名称の件と同様、「山紫水明」との混同でしょうか。)
「定期列車でも使えるような『つまらない』(直接記載はないが文意的にそう読める)仕様にしたのは、運用効率を上げてコストを減らす苦肉の策」との報道も、ズレているとわかります。確かに、せっかくの新車を有効活用するという意図はあるでしょう。ですがそれ以上に、先述の通り「つまらない」仕様の方が、用途にピッタリなワケです。「苦肉の策」なんかではありません。
その報道を含めて、「地味だからダメだ」とか「つまらない」といった印象操作めいた意見があちこちから出ています。多分、「トランスイート四季島」などのクルーズトレインや、九州の「D&S列車」、各地の三セクのイベント列車などと比較して言っているのだと思います。しかし、それらとはそもそも用途が違うので、比較の意味はありません。たとえ地味でも、キハ261系5000番台(仮称)はしっかり自分の仕事をこなし、北海道に貢献してくれるでしょう。
宗谷・サロベツの安定運行確保にも
キハ261系5000番台は代走要員、と言いました。
そこから導き出されるのが、「キハ261系5000番台によって宗谷・サロベツの遅れ・運休が出にくくなる」ということ。
宗谷とサロベツは、担当車両であるキハ261系基本番台の数が少ないために、しばしば代走運転になります。ノースレインボーエクスプレスがしばしばその役目を担います。
ノースレインボーの置き換え後は、キハ261系5000番台が宗谷・サロベツの代走に入ることになるでしょう。
現状だと、代走時はどうしても遅れが出ます。キハ261系基本番台よりも、代走車両の方が性能が低いからです。ノースレインボーエクスプレスでの代走でも数分遅れますし、ノーマルのキハ183系の代走だと大幅な遅れが出ることも。
ですが、キハ261系5000番台はベース車両と同じ性能になるでしょう。そうなると、宗谷・サロベツで使われるキハ261系基本番台よりも性能が高いということになります。
キハ261系1000番台はエンジン1基搭載の車両が必ず編成中に1両は入ります。ですが、1000番台をベースとする5000番台は、おそらく全車2エンジン。車両重量に対する出力は、基本番台よりも5000番台の方が上になるわけですね。
よって、性能差が原因となる遅れは起こらないでしょう。代走の場合でも、定時運行を確保できます。
また、代走に使っていないクリスタルエクスプレスも置き換えるので、代走に使える車両が1編成増えることになります。遅れだけでなく、代走車両の不足による運休も減らせるということです。
キハ261系5000番台のある種「副次的効果」として、宗谷・サロベツが今よりも安定して運行されることにも期待できるのです。
キハ261系1000番台との徹底した仕様統一
キハ261系5000番台(仮称)は、先述の通り同1000番台をベースにしています。
これは、北の大地という過酷な環境で車両のメンテナンスに苦しんでいるJR北海道にとって、きわめて重要なことです。
なぜなら、「車種統一」がメンテナンスを大幅に楽にしてくれるからです。
車種統一とは、要するに保有する車両の種類をなるべく少なくし、「同じ形式の車両が大量にある」状態にすることです。
雑多な車両を抱えていると、メンテナンスの費用や手間がかかります。メンテの手順も、部品も、それぞれ違うからです。車種を統一すれば、コストや労力を減らせます。
新たに車両を造る場合も、同じように車種を統一した方がコストを抑えることができます。
なので、車種統一はどの鉄道会社にとってもきわめて重要です。
JR北海道は、平成23年の石勝線脱線事故を皮切りに、平成25年のキハ183系スライジングブロック破損に代表されるような、あってはならないようなトラブルを多数起こしました。
それ以来、「安全はすべてに優先する」という方向性のもと、以前は資金難を理由に手を抜いていた車両のメンテナンスに、しっかりと力を入れることとしました。
そこで足かせになったのが、「会社規模に比べて極端に多くの種類の車両を持っている」という点でした。特急気動車だけでも、キハ183系、キハ281系、キハ283系、キハ261系と、車種だけで4つ。番台区分や、走行機器の仕様の違いも含めると二ケタ種類にのぼります。
安全対策をしっかり実行するためには、メンテナンスの現場の負担を抑える必要があります。また、安全対策のための資金を確保するため、コストも抑えなければなりません。
だから、JR北海道にとっては他の会社以上に車種統一が重要です。それゆえ、近郊電車は733系、ローカル気動車はDECMO、特急電車は789系、特急気動車はキハ261系に、なるべく統一する計画を実行中です。
新たな観光特急車両を造るのには、既存の車両と可能な限り仕様を同じにすることが、絶対条件となるのです。
キハ261系5000番台(仮称)の仕様を、プレスリリースから読み取れる限りで、もうちょっと詳しく見てみましょう。
ポイントは1号車のフリースペースです。どの号車からでもアクセスしやすく、(多分)取り外しも可能な3号車ではなく、1号車をフリースペースにする必要があったのは、なぜでしょうか。
答えは、「ベース車である1000番台の1号車がグリーン車だから」です。
プレスリリースに載っているフリースペースの画像を、当サイトのキハ261系1000番台の紹介ページで掲載している1000番台のグリーン車の画像と見比べてみてください。1000番台の1号車の、グリーン車のシートピッチに合わせた窓配置が、5000番台の1号車でそのまま活かされている、とわかります。
フリースペースの画像をもう少しよく見てみます。窓枠2つ分のスペースに、向かい合わせの座席が1対と、その間に飲食ができる広めのテーブルが描かれています。
キハ261系1000番台のグリーン車のシートピッチは1,145mmです。2列で2,290mm。これは、「ボックスシート+広めのテーブル」1区画に、ちょうどいい幅です。
もし、1号車を通常の座席車(普通車)とする場合、窓配置は変える必要があります。設計が変わってしまい、コスト要因になります。
グリーン車をベースにした車両であるがゆえの特殊な窓配置。ある種の「ハンディ」を抱えた1号車の構造を、むしろ逆手にとって「個性」に変えた。この「ハンディを個性に変える」センスは、ノースレインボーなどのリゾート車両を生んだ柿沼博彦氏の思想に通じます。平成初期のリゾート車両のスピリッツは、キハ261系5000番台(仮称)にも受け継がれるのです。
そのほかの設計も、プレスリリースを見る限りベース車との違いはほとんど見られません。ハイデッカーではありませんし、天窓もありません。
見た目の個性は少ないですが、それ以上に徹底した仕様統一により、費用面で大きなメリットとなります。
ある意味「無難」な設計となっている車両ですが、バブル期のような浮世離れした感じではなく、徹底した仕様統一によって地道に堅実に課題をクリアしていく「地に足を付けた」リゾート車両といえるでしょう。
「費用をかけて車両を造るより、累計走行距離が少ないクリスタルエクスプレスやノースレインボーエクスプレスを活かした方がいいのでは?」という見方もできるかもしれません。
独特な形状のクリスタルエクスプレスやノースレインボーエクスプレスも、一応キハ183系がベースになっており、エンジンや変速機など共通点があります。ある意味「車種統一」はされているとも言えます。
ですが、車両を新製しないと得られないメリットがあります。それは、「キハ261系1000番台と」仕様統一ができる、という点。
キハ183系は先が長くありません。ベース車がいなくなってしまえば、クリスタルやノースレインボーは単なる異端車にしかなりません。
キハ261系1000番台ベースの車両を新製すれば、仕様統一のメリットを将来にわたって受けられます。
それに、バリアフリー化や無線LAN・コンセント装備など、車両新製によって得られるメリットも大きいです。クリスタルやノースレインボーに無線LAN搭載や充電スペース設置などの改造を行っても長くは使えないので、新製した方が結局安く上がると思います。ハイデッカーだとバリアフリー化はどのみち無理ですしね。
なぜ製造費用を用意できたのか?
「オホーツク・宗谷系統を一部旭川発着にしなければならないほどに特急車両の製造費用が不足しているのに、どうして観光用の新車を造れるのか?」という疑問を持った方もいると思います。
確かにクリスタルエクスプレス・ノースレインボーエクスプレスの置き換え時期ではありますが、だからといって定期列車に入らない車両をどうして造れるのか、と。
簡単に言えば、「国から観光への投資にお墨付きをもらったから」です。
数々の事件を起こし、再起へと歩みだした当時のJR北海道は、とにかく資金難に苦しんでおり、資産を売却したり、サービスを縮小したりしてなんとか資金を工面する程度のことしかできませんでした。新車は、古い車両を置き換えて安全性を確保する(+サービスを改善する)ための最低限のぶんしか、発注する余裕がありませんでした。
それが、昨年になって変わりました。平成30年7月に国土交通省がJR北海道に「事業の適切かつ健全な運営に関する監督命令」を出し、JRに経営再建を求めましたが、その中に「インバウンド観光客を取り込む観光列車の充実」による収益の増加を行え、との命令が盛り込まれ、「経営基盤の強化に資する前向きな設備投資に対する支援」が約束されていました。
言い換えれば、「国が面倒を見るから観光列車に投資していいですよ」ってことです。
これによって、観光用の車両の調達が可能となりました。
利用促進策としての意義を問う声について
特急「宗谷」に使える観光車両を造るわりに、同じ宗谷本線の特急である「サロベツ」を札幌に再度直通運転させるための車両が出ない、というところで「利用促進策としてはズレているのでは?」という意見があるとは思います。地元客の流出を防ぐための定期特急のサービス向上の方が大事だ、という立場ですね。
ですが、それはちょっと論点が違うかなと。
キハ261系5000番台が宗谷の代走に使われるのは、「利用を促進したいから」というよりは「宗谷に使うキハ261系基本番台の数が少ないから」というのが実情でしょう。「宗谷本線の利用促進のために何をすべきか」の議論とは分けて考える方が自然です。
また、先述したように「車種統一」をはじめとした運用面などでのメリットがありますので、単に利用促進策として有効かどうか、という側面だけで語るべきものだとは思いません。
利用促進策としての側面から考えるにしても、悪手とは思いません。これも先に述べましたが、「宗谷・サロベツの運休・遅れを減らせる」という点があるからです。
札幌直通などで利便性をアップさせるのも確かに利用促進の方策として正しいのですが、「安定運行を確保する」こともまた、利用者を確保することに繋がるのです。いっつもアクシデントばかりの列車より、安定して運行される列車の方が支持されるに決まっていますもの。代走措置の多い宗谷・サロベツでは、かなり重要なポイントです。
また、そもそも「観光で利用促進」という方向性自体が夢物語、などと観光列車的要素を含む車両の導入そのものを頭ごなしに否定し、キハ261系5000番台の意義を訝しむ意見も見られます。
ですが、キハ261系5000番台は「移動手段」としての側面が強い列車を中心に使う車両の置き換え用。需要創出の意味合いもあるとはいえ、多くは「現状の輸送体系を確保すること」が目的だ、とさえ言えます。よって、そういう文脈で批判すること自体が的外れです。
(鉄道の観光的価値を過小評価している点それ自体についても批判したいところですが、本論の本筋から外れるので、今回は割愛。)
観光車両を造るにしても、オホーツクや宗谷の車両確保の方を優先すべきで、優先順位が違うのでは、という声もありましょう。優先順位はともかくとして、同時並行でそういう車両を検討すべき、というのは一理あります。
でも、ゴーサインが出ません。多分ですが、以下のような点が理由なんじゃないかな、と思います。
まず、国の立場。国がキハ261系5000番台の製造を支援するのは、先に述べたように「観光列車の充実」により経営改善を目指す「前向きな設備投資」に(少なくとも体裁上)該当するからです。
一方、ビジネス・用務客が少ないオホーツクや宗谷への投資は、経営改善に資するとは言い難いでしょう。
そのため、オホーツク・宗谷の利便性アップのための投資は、「経営改善のための投資」というよりは、路線維持のための枠組みづくりの話になります。つまり、支援の要件のうち、「利用が少なく鉄道を持続的に維持する仕組みの構築が必要な線区における鉄道施設及び車両の設備投資及び修繕」の方にあたります。こちらに対する支援は、「地方自治体等からも同水準の支援が行われることを前提」としています。
現状、宗谷・石北本線の沿線自治体が車両の製造費用を支援するような話はありません。そのような状況では、国としては支援できないと判断しているのでしょう。
次にJRの立場。JRにとっても、単に車両の数を抑制する以外に次のようなメリットがあります。
- 789系基本番台のグリーン車をそのまま活かすことで、改造費用の低減を図れる。
- 北海道新幹線札幌延伸後はキハ261系1000番台の余剰が出るので、その時に余剰を活用してオホーツク・宗谷に車両を回して札幌再直通化を行えばムダがない。
あくまで推論ですが、こういった事情があるものかなと。
徹底的な窓の清掃を!
キハ261系5000番台(仮称)が挑戦すべき課題についてもいくつか。
まず、窓についてです。観光列車では、車窓を見るのが一つの楽しみになりますが、窓が汚かったら楽しみが減ってしまいます。
ボクは、観光列車だからって普通の車両と違う形の窓が付いている必要は必ずしもないと思います。なので、キハ261系5000番台(仮称)の窓が1000番台と同じなのは別にいいと思っています。大事なのは、形ではなく、清掃が行き届いていることです。
観光車両として位置付けるなら、手入れも観光仕様にして、他の車両よりもしっかりと。常にきれいに保ってほしいと思います。
いかにスペシャル感を演出するか
課題2つ目。5000番台(仮称)は「すべからく」地味な車両です。
とはいえ、「観光車両」かつ「特急車両」として位置付けるからには、定期列車用の車両(1000番台)とは違う「スペシャル感」を出すことが大事です。
観光列車に乗るのを楽しみにしていたのに、いざ乗ってみたら普通のビジネス特急とほぼ同じだった……となったら、かえってイメージダウンになっちゃいます。
ニュースリリースを見る限り、内装はかなり「つまらない」です(さっき「報道による印象操作」とか喚きましたが、「つまらない」という部分にかけては間違ってないと思います)。現状ではダメで、改善が必要です。
参考:「北海道の恵み」の内装
H5系の「E5系と共通仕様としつつさり気ない北海道らしさのアピール」、キハ40形改「北海道の恵み」や新・新千歳空港駅の「悪趣味さの無い、あたたかな木目調デザイン」と、最近はまずまずの成果を出しているJR北海道。きっと今回もばっちりデザインしてくれると信じて――。
もちろん、一人のデザイナーに任せきりにするのはご法度。車両の使い勝手に障ったり、説明しないとわからないようなデザイン思想を押し付けられたりすることもあり、危険です。しっかり自社で、あるいは自社の意見を通せるような体制で、デザインにあたっていただきたい所です。
※追記(令和2.6.4)……後日発表された詳細なニュースリリースに、改良版の内装イメージ図が載っていました。デザインが大幅に改善し、楽しげな雰囲気になっていました。もう一声……!
輸送力に問題はないか?
もう一つ課題を挙げます。定員の問題です。
1号車はフリースペースなのでノーカウント、2~5号車はキハ261系1000番台7次車と座席配置が同じ、と仮定すると、次のようになります。
「2号車48名 + 3号車54名 + 4号車54名 + 5号車52名 = 合計208名」
クリスタルエクスプレスは定員156名です。1・4号車の展望スペースと3号車1階の個室は使えないので、かなり少ないです。今回の新車はこれよりも52名増えます。
ノースレインボーエクスプレスは、定員250名。ただし、構造の都合上窓の外が見えない座席が2席あるので、実質248名。それよりは、40名の減少となります。
差し引き12名増となり、フラノラベンダーエクスプレスの輸送力はキープできます。また、クリスタルエクスプレスの3号車2階(自由席)が4人掛けの固定クロスシートということを考えると、フラノラベンダーエクスプレスにおける実質的な定員差がさらに14名あるので、輸送力増強とさえ言えます。
ただ、今後外国人旅行者が増えたら、これで足りるかちょっと心配だと思います。また、臨時「北斗」に起用する場合、年末年始だと明らかに足りません。
せっかくの観光車両、乗客をすし詰めにしたらかえってイメージダウンになってしまいます。利用動向を見て、柔軟に対応してほしいところです。
「シックスマン」としての大活躍を期待
こういう、「観光仕様の特急車両で」「定期運用には基本的には入らず」「各地の波動輸送・団臨・イベント列車などをマルチにこなし」「いざとなったら性能を活かして定期列車の代走までこなし」年間を通じて活躍する車両は、北海道外には(少なくとも国内には)ありません。
なので、ノースレインボーエクスプレスや、キハ261系5000番台(仮称)といった車両は、道外の方にはイメージがつかみづらい車両だと思います。
他社のジョイフルトレインとかは、たいてい「乗ること自体」が目的で、「輸送網」には絡んでいません。ですが、北海道のリゾート車両というのはそれと違って、「輸送網の一部」なんです。多客輸送・波動輸送を定期列車とともに捌き、代走により定期列車を補助する……という風に、道内の広域「輸送」を支える役割を担う車両です。
例えるなら、バスケットボールの「シックスマン」。スタメンではないものの、実質的な「6人目のスタメン」として交代出場し、状況状況に合わせたプレーで流れを作り、ここぞではスタメン同様(あるいはスタメン以上)の活躍を見せる。
将来的に北海道の気動車特急全列車を担うであろう、ベース車・キハ261系1000番台と対比するならば――、定期列車として地道に走り、輸送網の基盤を作る1000番台が「ティム・ダンカン」。シックスマンとしてマルチな役割をこなし、時には定期列車同様の重責を担う5000番台(仮称)は「マヌ・ジノビリ」といったところでしょうか。
ジノビリに例えるのはちょっと大げさかもしれませんが、ボクの気持ちとしてはそれくらい重要な役目を担う車両としてどんどん走ってほしいなと思っています。積極的に活かして、観光客の量・質の増加に繋げてくれればな、と。
当サイトでは、過去の記事で「キハ183系の多目的観光特急車両化簡易改造プラン」という妄想を文章にしたことがありますが、「車種統一」「多目的に活用」「座席車中心」「コンセント」といったプランの骨子が、今回のキハ261系5000番台(仮称)の計画で実際に具体化しており、かなり驚いています。
当該記事の「予想」部分はそれなりに自信を持って書いていましたが(そのワリに結構外したorz)、「妄想」部分まである程度的中するとは思いませんでした。流石にこれはマグレですね。
ド素人が(マグレだとしても)それだけやれるのに、新聞社さんたちはなんで車両の紹介くらい正しく書けないやら。
報道発表資料を軽く読めばわかることを、平気で間違える。だったら記者クラブのポストなんていらないじゃないですか。文章を書く人が文章を読めない(読まない)、マス・コミュニケーションがコミュニケーションできない(しない)、そんなんだからいつまで経っても「フールジャパン」なんですよ。
まあそれはさておき。今年以降、ずっと止まっていた北海道の観光列車づくりの動きが、再び動き出しそうです。楽しみになってきました。
JR北海道には、内装のブラッシュアップや、しっかりした整備・プロモーションを。沿線には、せっかくの流れを活かすために、人任せにせず自分が動き出すという意識を持った行動を、それぞれお願いしたいです。
JRの収益体質の強化への一歩、そして北海道の観光を質・量の両面でレベルアップさせるための一歩として。多くの人の期待を背負った新たな観光車両が、来秋、走り出します――!